武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 地面に寝ることの快楽

 キャンプの魅力について考えてみるに、辿り着いた一つの結論が、地べたに寝ることの気持ち良さではないかということ。グランドシートと薄いマットそして寝袋を隔てただけで、そのすぐ下が地面、そこが草地なら草の感触、石ころがあれば身体のどこかに当たり、凹凸が直に寝心地を左右する。地上で暮らす生き物であることの生々しい実感。
 一度地震に遭遇したことがあるが、ドンという大地の響きを全身で感じて、心臓に良くない思いをした。足の裏やお尻で感じるのとは全然違っていた。風が吹こうが雨が降ろうが大地は揺るぎもしないが、豪雨のときテントの下に雨水がたまり、昔のことだがテントの下に流れができてしまったのには参った。
 ほかに場所がない時の傾斜地も困る、栃木のあるキャンプ場で、キャンプ場全体を見渡しても傾斜したところしかなくて、承知の上で斜めの地面にテントを張ったことがある。朝起きたら、いつの間にかテントの隅っこに移動していて、低い位置で止まっていた。身体の片方に血液が寄ってしまう気がして、安眠しにくかった。
 寒くなると、地面からの寒さを遮断しないと、辛い思いをする。押しつぶされそうに冷え込んでくる寒気と地面に挟まれて、寒さに震えるキャンプ生活は一種のマゾヒズム。これを快楽と言うのはチト無理かもしれない。
 秋の虫が鳴く頃、地面で寝ると、虫と同じ位置で過ごすので、鳴き声が一段と近くなり、気持を虫に近づけないと相当にうるさい。だが、虫の音は騒音とは違う、いつの間にか寝てしまうし寝心地は悪くない。
 湖の近くでキャンプすると、すぐ耳元に打ち寄せる波の音が聞こえる。海岸とも川岸とも違う湖水の囁きは、心地よい睡眠導入剤。キャンプをしなければ、決してこういう音響効果や地面の直接性は味わえないに違いない。 (画像は中禅寺湖のすぐわきでキャンプ)