武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 岩崎一彰・宇宙美術館インプレッション


 伊豆高原の一角にある岩崎一彰さんの宇宙美術館へ行って来た。申し訳ないことだが、岩崎一彰さんのお名前は私の記憶にとどまっていなかった。展示をみて吃驚、受付の方に「きっと懐かしい世界ですよ」と言われた訳がすぐに分かった。かつて何度も眺めて宇宙への空想にふけった図鑑の緻密な宇宙画の作者が、何と岩崎さんだった。作者が誰かなど気にもかけず、夢中になって宇宙へ夢を馳せていた見事な宇宙画の数々の作者と出会い、思いがけない発見に何度も吃驚する宇宙美術館訪問となった。 (画像は専用駐車場から見た宇宙美術館のユニークな外観)
 館長の岩崎さんご本人が案内と説明をしてくださり、建物全体が岩崎さんの夢が形をなしてできた宇宙美術館だということが熱く伝わってきた。サイズの大きな絵を見慣れている目にとって、岩崎さんの緻密な精密画の世界は、気持ちをガラリと切り替えないと、その真価が実感できないミクロの世界だった。所々にルーペを下げてあり、拡大して見てはじめてホーッと感心したりエッと驚いたりする世界なのだ。スプレーと極細筆による顕微鏡的な細密画、その丁寧な仕事ぶりが子ども達の宇宙への夢想を支えてくれていたことに改めて気づかされたことだった。どう見ても写真にしか見えないが、写しに行けるはずのない宇宙の映像なので、やっと絵だと言うことが分かるような、人が描いたとは信じがたい細密な原画の数々の展示は、ただ凄いと感心するしかない。

 岩崎さん自身がおっしゃっていたことだが、宇宙は実際に行ってみるのは不可能な世界、観察と理論に基づいた想像画でしか表すことができないのが宇宙。心が生みだすあり得ない幻想の世界などではなく、実際にあるであろうが絶対に見ることのかなわない宇宙を視覚化すること、それが岩崎さんの仕事だ。高度な熟練技とで繊細な集中力が求められる困難な作業の結果だろう。あまりにも見事に視覚化されているので、不覚にも長い間、私には作者名にまで注意が届かなかった。だがこれは、作者にとって名誉なことではないかという気がした。商品のパッケージデザインもそうだが、作り出した作者がいることを消費する人が全く意識しないようなデザイン、そう言う種類の仕事の存在に改めて気付かされた。強烈に作者を意識させる近代絵画の対極にあるような仕事と言えようか。 (画像は、1階の常設展示場)

 A3かB4サイズ程度の大きさのサイズに微細に描き込まれた世界は、何度見てもあまりにもリアルだった。リアルであることさえ感じさせないほどにリアルな質感、これには本当に感心した。「学術的でありながらも美しい」ということの凄さは、集中してじっくりと鑑賞しなければ分からない。しばらくは、図書館の児童書コーナーの図鑑類を改めて眺めてみたいという気持ちにさせられたことだった。 (画像は、改めて入手してつくづく見つめ直している岩崎さんの著作)
 この建物の屋上には、岩崎さんこだわりの大きな反射望遠鏡があり、実際に操作して太陽の黒点を探してもらったが、まったく黒点が見つからなかった。黒点がない時の景気の後退が話題になったが、数日して同じことを話題にしているマスコミがあった。非常に展望のいい屋上なので、周囲の展望台としても一見の価値がある。
 宇宙美術館のサイトがあるので、詳しいことを知りたい人は以下のURLをクリックしてみてほしい。
http://www2.wbs.ne.jp/~kisag/
 最後に、宇宙美術館の内部の展示内容をお示ししておこう。

[地階]:プラネタリウム、ショップ、宇宙食を売っていました。毛利さんの宇宙メダカが飼育されています。喫茶「サロン・ド・カズ」。
[1階]:常設展示室 宇宙をテーマに太陽系の惑星を描いた作品展示。
[2階]:企画展示室−テーマ毎に超細密原画を展示。
[屋上]:天文台、直径5mの鋼鉄製ドーム、その中には61cmの大型反射望遠鏡設置。