武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『アバター』印象記 ジェームズ・キャメロン監督・脚本


 3D映画として評判の昨年暮れの正月映画「アバター」を、遅ればせながらやっと見てきた。シニア料金になっても1500円と高かったが、DVDでは3D鑑賞は出来ないので、久しぶりの映画館行きとなった。3Dの映像効果はさすがで、その高度な技術と派手なCG造りにお代を支払ったと考えれば、この入場料は高くないという気がした。休憩なしの3時間は決して長く感じなかったが、途中でオシッコに行きたくなったのには少し参った。
 長くて入り組んだ複雑なストーリーだったので、ネタバレを承知で映画の内容を少し掘り返して見よう。
(1)時は22世紀、地球から遙かな宇宙空間の<パンドラ星>、不思議な動植物が生息するそのパンドラ星の地下にアンオブタニウムという希少超伝導物質が埋蔵されているという設定、その鉱物資源開発を目論む企業とその企業の活動を支援する傭兵部隊が、何とかして地下資源を獲得しようとして、パンドラ星の先住民と種のハイブリッド技術によって造られた<アバター>によって接触、紆余曲折の経過はあるものの目論見は、最終的には武力衝突に発展してしまうというのがその物語のプロット。
(2)この大きな枠組みの中で実際に動き回るのは、主人公の元海兵隊の兵士ジェイク、彼は地球上の戦争で負傷して下半身不随の車椅子生活者、パンドラ星でのアバタープロジェクトに参加して成功すれば、高価な報酬とともに不自由な足を治してもらえるという約束になっている。ジェイクが急遽この作戦に呼ばれたのは、すでに双子の兄がこの作戦に参加してプロジェクトを進めていたのに急死してしまったために神経組織がよく似ている彼が選ばれたため。ジェイクは、作戦への参加を了承、さっそく人類DNAとパンドラ星の先住民ナヴィDNAを交配した人工生命体<アバター>に、パンドラの生物が持つの生態交感能力を応用した技術を使って意識侵入して、先住民の姿で動き始める。
(3)物語の舞台は大きく分けて二つある、先住民が暮らす二酸化炭素濃度の高いパンドラ星本来の自然環境空間と、シールドで保護された人間が生存可能な基地空間、アバターとなったジェイクは、身長3メートルの青い有尾人となり、不思議な動植物が生息するパンドラ星の自然の中へ出てゆき、先住民の族長の娘ネイティリと出会い、ナヴィの習俗や生き方を学んでいくうちに互いに惹かれ合い、やがて愛し合うようになってゆく。二つの世界をジェイクが行き来するのが味噌、サスペンスを仕掛ける物語の装置として機能する。
(4)パンドラ星の基地にはもう一人、長年パンドラ星の生態系を研究しており、ナヴィとの融和をすすめ文化交流や英語教育をしてきたグレイス博士がいる。すでにアバターとなって先住民と交流があるので、ことある毎にジェイクとグレイスは協力しあってアバタープロジェクトを進めてゆくことになる。この物語では、先住民の文化体系の軸となる母性とそれを保護しようとする女性の発想に大きな比重が置かれているところは注目に値する。
(5)ジェイクはナヴィの文化を詳しく知ることにより、希少物質が埋蔵されている場所こそが、ナヴィ達の生き方の中心になっている巨大な<生命の樹>が生えている所であり、希少物質の発掘は<生命の樹>を破壊することになり、ナヴィ達を懐柔して移住させることが不可能なことに気付き、資源開発事業と先住民文化との板挟みとなり、先住民の側に付くことを決意する。
(6)ジェイクに裏切られ先住民融和策が破綻したことに気付いた傭兵隊長マイルズは、<生命の樹>そのものを破壊し先住民を追い払おうと武力攻撃を選択、先住民との武力衝突に発展する。<生命の樹>への攻撃が成功するかに見えた時、先住民の連合軍だけでなく、パンドラ星に住むあらゆる生き物が立ち向かってくる状況を招いてしまい、力による資源開発事業はパンドラ星からの撤退を余儀なくされる結果となってこの物語は終わる。
(7)パンドラ星の生態系が宮崎アニメの「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」、「もののけ姫」の世界を彷彿とさせたり、武力行使アメリカのベトナム戦争イラク戦争などを連想させたり、キリスト教の歴代の布教活動やアメリカ先住民迫害の歴史など、多くの作品の参照と歴史的事実の連想によって出来上がっている映画という気がしたが、個々の映像の奥行きと動きは、それらとは別に独創に満ちていて、たっぷり楽しませたもらった。特に3D映像を意識した、ダイナミックな空間演出や活劇場面は、この映画ならではの素晴らしさいっぱいだった。噂では、この映画の好評を受けて、「アバター2」の企画が動き始めているらしい。是非次回作も見てみたい。