武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『図書館に訊け!』 井上真琴著 (発行ちくま新書2004/8/6)


 電子書籍の普及が図書館に与える影響を調べようとウロウロしていて、偶然にこの新書に行き当たった。図書館業務に精通した現役の図書館関係者の本と期待したのだが、深く広く図書館活用法を説いて、非常に有益だった、ベスト図書館取扱説明書として紹介してみたい。
 現役の研究者や学生さんが対象読者のようだが、時々分からないことに行き当たる一般市民にとっても、知りたいことをいかにして調べたらいいか、この本は図書館の利用法を通して、調査活動のノウハウを実に分かりやすく教えてくれる。気に入った特徴を拾い出してみよう。
①何よりも説明の文章が明快で分かりやすい。具体例を豊富に使いながら、手を取るように教えてくれる説明上手、長い間、仕事として説明することに苦労して出来上がった文体なのだろう。達意の文章が見事。
②所々に配置してある著名人のエピソードの引用が楽しい。説明している事柄にドンピシャリの選択眼に感心した。説得力に奥行きが加わわった。
③これまでは図書館を建物と蔵書の二面からしか見てこなかったが、これらのハードを使いこなすために、図書館で働く人々のソフト面が重要なことを教えられ、目からウロコだった。カリスマ書店員ならぬ有能な図書館員の人材を実感できるような図書館利用を考えてみたくなった。ここがこの本の最大のセールスポイント。
④この著者が最も力をこめて説くのが、レファレンス・サービスの活用、一言で言えば、図書館の職員に、調べたいことをもっと相談してほしい、と言うこと。最近の図書館はどこもこのサービスに力を入れているらしい。
⑤90年代からのネット社会の広がりが、図書関連データベースに画期的な拡大を呼び起こしているようだ。全世界的な図書館のネットワークが形成されていることを知ることが出来た。図書館も凄い事になっている。図書館の最新情報も知りたくなった。
 内容がよく分かるので、詳しく目次を引用しておこう。目次が充実している本は内容が濃い。

はじめに
図書館は永久に未知の国/誰だって使いこなすのは難しい
第1章 図書館の正体と図書館への招待
 1 図書館がゴーマンな理由(図書館はゴーマンか/図書館はギルドな世界か/教えられない「利用のための文法」/図書館つかいこなし心得の条/資料利用のモチベーション
 2 図書館の存在意昧とはなんだろうか(インターネットに飛びつく人たち−図書館以前の問題?/新刊書店に群れる人たち−図書館以前の問題?/古書店に駆け込む人たち−図書館以前の問題?/図書館の存在理由/「童貞」ひとつを調べるにも…)
 3 図書館にはいろんな種類がある(公共図書館学校図書館専門図書館国立国会図書館大学図書館/学術研究の基本スタンス/大学教育と図書館)
第2章 資料の多様性と評価の視点を知ろう
 1 図書館は資料のセレクトショップ(資料は評価され、選択される/多様なセレクト基準)
 2 多様な資料の世界を覗く−灰色文献を中心に(非流通本の世界/貴重な展覧会カクログ/重要企業の社史/故人の追悼録/科学研究費補助金「研究成果報告書」/記録史料類)
 3 学術雑誌の世界を知る(学術雑誌の存在/学術雑誌の仕組み−査読制度/熾烈をきわめる国際学会誌/大学・研究機関が発行する研究紀要)
 4 どのように選んでいるか−手にした資料の外的評価(見どころ①−図書の形態(頁数と大きさ)/見どころ②−目次構成/見どころ③−索引宗引・文献目録の充実度/見どころ④−初出の掲載誌のレベル/見どころ⑤−注の付け方/見どころ⑥−図表の典拠や充実度/見どころ⑦−出版年、改版・改訂の頻度/見どころ⑧−付録や新機軸(特に復刻本の場合)/見どころ⑨−者者の信頼度/見どころ⑩−出版社の実績・編集者の実力/その他(翻訳図書など)
第3章 どうやって資料にたどりつくのか(1)
 1 目録と書誌情報の世界(目録の効用/目録は世界を読み解くフィルター/図書館の目録と書誌情報・所蔵情報/項末にこだわるのは学術研究のため/カタロガーは雲上人か)
 2 目録の見方・使い方の実際(OPACを検索する/図書の目録の見方/雑誌の目録の見方/他館所蔵の資料を探す−総合目録の利用など)
 3 本の並べ方にも意味がある(日本十進分類法/請求記号は資料の住所番地/並べ方は人を導く/並べ方は世界観をあらわす)
第4章 どうやって資料にたどりつくのか(2)
 1 文献探索・情報探索の基本(探索の基本的ステップ/イモヅル法と索引法)
 2 レファレンス・ブックの利用(レフアレンス・ブック−「再度元へ立ち返る」ノレフアレンス・ブックの系統と種類)
 3 事柄を調べるためのレファレンス・ブック(百科事典の機能/百科事典の鉄則?1−索引から引く/百科事典の鉄則?−複数を引き比べる/百科事典維持の困難さ/レファレンス・ブックの個性)
 4 文献を調べるためのレファレンス・ブック−目録・書誌・雑誌記事索引(目録・書誌・雑誌記事索引/書誌を利用する諸氏/書誌の持っ魅力と威力/書誌作成の舞台裏/雑誌記事索引ブラウジングによる発見)
 5 実際の探索プロセス(外国留学体験者の方法も同じ/大学教員はレファレンス・ブックの利用下手?/教員が学生に希望する探索作業/現代の「ヅーフ部屋」へ急げ)
第5章 レファレンス・サービスを酷使せよ
 1 モノを利用するのではなく、ヒトを利用する(それは図書館のコンシェルジェ・サービスか?/レファレンス・サービスの本質/レファレンス・サービスは知られていない)
 2 レファレンス相談の風景(ホンチョウムダイシ?/荷風と谷崎の「西村京太郎」的展開?/お宮・貫一の流行歌はいずこへ…/お役所の資料の探し方/昭和十三年の絵の値段を、今の価値に換算できるか?/レファレンス・サービスの支援領域)
 3 レファレンス・サービスの舞台裏(レファレンス・ライブラリアンの哀しき日常/レビュー文献の大切さ/「講座」もの、シリーズの別巻の上手な利用法/博士論文の狙い撃ち/ヒントの宝庫−国立国会図書館の隠れた参考文献/学説史を押さえるための学者の自伝/研究ガイドにも注意/講義概要・シラバスは学問体系の索引宝庫だ/児童書の利用で頭を整理する/達人たちの探索方法をストーカーする/「方法を知るための読書」に徹する/とにかくレファレンス・ライブラリアンに訊く)
第6章 資料は世界を巡り、利用者も世界を巡る
 1 相互利用サービスを活用する−訪問利用・現物貸借・文献複写(相互利用サービスの内容/NACSIS Webcatの公開とILLの進展/紹介状は図書館界へのパスポート/文猷複写と現物貸借/幻の学位論文もゲット)
 2 いざ、外国の図書館に出陣する(外国の図書館に乗り込む/利用のための事前練習/現地の図書館員をあらかじめ探す/必ず問われる「利用目的」)
終章 電子情報とのつきあいかた
 1 電子情報に対する図書館の対応(信頼性ある電子情報の組織化/外部電子情報の取り込みと機能改良/図書館のスタンス)
 2 図書館をよくすること、限界を知ること(利用者こそが図書館を育てる/図書館調査は、研究プロセスの前段階)

 非常に真面目な本なのに、読みやすくて楽しめる本だった。興味のあることを調べるのが好きな方なら、どなたにでもお勧めしたい、読んで得した気持ちになれる本です。