武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第1週に手にした本(31〜6)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。

池谷伊佐夫著『書物の達人』(東京書籍2000/9)*書物に取り憑かれた人々が書いた本についての本である。第1章が<書物随筆篇>、第2章が<書肆篇>、第3章が<本の物語篇>、いずれも主題は本、<本の本>の情熱的な書評集、第1章の書物随筆篇が質量共に素晴らしい内容、この世には恐るべき読書家・愛書家がいると言うことを知るだけでも、本好きなら本書を手にする価値がある。
文藝春秋ノーサイド編『美食家列伝』(文春ネスコ2002/2)*この本の<はじめに>を読んで分かった。美食家と言われる人に何故文筆家が多いのか。食べ物の話を表現力豊かに文章化出来たから、美食を人に伝えることができる文学者が結果的に残ったに過ぎなかった。読んでみるとグルメからほど遠い話が多いのも肯ける。食への思い入れを如何に情趣豊かに記述できるか、これが食談議の要諦であろう。この本でそのことが良く分かった。おそらく本物の美食家は、物も言わずに静かに味わう人の中にいるのだろう。
◎本谷恵津子著『干し野菜クッキング』(家の光協会2006/2)*根菜、葉菜、果菜、きのこ・ハーブ、果物などを干して味を濃縮、料理にひと工夫してみようという発想の料理本。徹底的に乾物にしてしまい保存性を良くするための干し作業よりも、2〜3時間干して味を濃くして料理に生かすレシピが多く、余計な手間をかける理由がいまひとつ分かりづらかった。企画が十分に熟していないとみた。
近藤史恵著『エデン』(新潮社2010/3)*先週読んだ「サクリファイス」の続編、前作で活躍した自転車のロードレーサーが今度は、海外へ移籍、ツール・ド・フランスに解散寸前のチームの一員として参加するお話。海外ロードレースへの興味と巧みな物語作りでなかなか読ませる。丁寧な心理描写と爽やかの後味がこの本の長所。
◎福田俊作・穂高養生園スタッフ著『穂高養生園の週末ごはん』(主婦と生活社2007/4)*野菜中心の四季朝晩の献立が写真入りで載っていたので図書館から借りてきた本、一汁三菜の自然食が宿泊施設のセールスポイントにしている。精進料理のレシピ集。
◎洪自誠著/魚返善雄訳『菜根談』(角川文庫1970/3)*中国の明の時代の末期に書かれた人生訓をちりばめたアフォリズム集、内容よりも魚返氏の日本語訳の自在さが出色の読みどころ。引用してみたい誘惑にかられる名文句が並んでいる。今現在入手が難しいのが難。
倉田卓次著『裁判官の書斎』(勁草書房1985/6)*家畜人ヤプーの原作者ではないかと疑われた元裁判官の随想集、裁判関係者特有の司法的文体をきれいにぬぐい去った平明な文章、並外れた読書を基調にした豊かな博識に支えられた深い語り口が素晴らしい、緻密で旺盛な探求心に感服。この1月30日に訃報が報じられたのが切っ掛けで手にしたが、この人の本はクセになる。
倉田卓次著『続・裁判官の書斎』(勁草書房1990/9)*前作よりも、書物の話題が増えており、書評集的な色彩が濃くなった。話題の自在さと奥行きが増して、随想集としての完成度が高くなっている。ヤプーの原作者を疑われるだけの表現力をもつ文章である。惜しい人を亡くした、ご冥福をお祈りしたい。
沼正三著『家畜人ヤプー第一巻』(幻冬舎アウトロー文庫1999/8)*倉田卓次氏の訃報がきっかけで手にした。加筆訂正を繰り返してきたヤプーの最終版という触れ込みが気になっていた。最初の都市出版社版28章ものを読んで、あまりの想像力に圧倒され物が言えなかった。5巻目の後書きに出てくる「関係のないK氏に迷惑を掛けた」とあるK氏とはまさに倉田氏のことであろう。この裁判官がヤプーの作者だったらどんなに夢が膨らんだことか(笑)。
池谷伊佐夫著『東京古書店グラフィティ』(東京書籍1996/11)*都内の70数店の古書店の見取り図と古書随想をミックスした古書好きには堪らない古書趣味本。店内の見取り図がなんともチャーミングな出来栄え、どんな古書店写真集よりも古書店廻りに出かけたくなる。取材に手間と時間がかかっている大変な労作。
森博嗣著『工作少年の日々』(集英社文庫2008/1)*物作り随筆と呼ぶべきか工作随筆と呼ぶべきか、素敵なジャンルの元となりそうな愉しい随筆集、「モノを作る幸せ」を共有できる人には得難い好読み物になるに違いない。私もかつては工作少年、いや大人になってからも工作中年だったので、読んでいて指先が疼いてならなかった。変形版の単行本で読んでいたのにまた文庫まで買ってしまった(苦笑)。
西條八十著『西條八十全集5訳詩』(国書刊行会1995/10)*西條八十の訳詩全357篇を集めたもの、生前に刊行された「西條八十訳詩集」に含まれなかった訳詩の方が多い。西條の訳詩は「白孔雀」が有名だが、本書を見ると晩年まで生涯にわたって100名を超える詩人の訳詩の試みが続いている、驚くべき知的好奇心の持続に驚いた。
宮川淳著『宮川淳著作集2』(美術出版社1980/10)*1部が美術批評、2部が言語・文学論に分類され、多様な宮川淳の論文、エッセイ、対談、時評、書評などが蒐集されており、内容が多岐にわたるので通読は無理、興味のある見出しを拾い読みしただけで図書館に返すことになる。