武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第4週に手にした本(21〜27)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。

平野啓一郎著『決壊・下』(新潮社2008/6)*現代を舞台にした著者にとって初の現代小説ではないか、この国の日常生活への克明な書き込みに、才能を感じた。愉しみにして読み進めた。力作である。読書コーナーで紹介した。
村上龍著『昭和歌謡大全集』(集英社1994/3)*どう考えても感情移入するのが不可能な登場人物オタク男6人とオバサン6人と女子大生1人を登場させ、凄惨な復習劇の連鎖反応をプロットに、クールに現代の世相を描ききった力作中編。現代日本を舞台にした逆ユートピア小説、大作「半島を出よ」の前編に位置付く作品だが、カタストロフィの衝撃力は半島に勝るとも劣らない。
石牟礼道子著『苦海浄土』(河出書房新社2011/1)*池澤夏樹個人編集の世界文学全集全30巻の中の一冊、唯一のこの国からの作品がこの作品、ひとつの見識として評価したのと、3部作が1冊にまとまったので入手した。70年頃に第1部を初めて読んだときの深い衝撃が忘れられない。その後も何回も手にしてきた。個人的に環境問題に関わるようになった出発点がここにある。
宮川淳著『宮川淳著作集3』(美術出版社1981/9)*本書は没後に刊行された著作「美術史とその言説」とそれに関連する西洋美術史にかかわる宮川の論考、解説、エッセイなどをまとめたもの。最後に宮川の略年譜がついている。通読出来る本ではなく、宮川の思索の跡をだどるための資料集として貴重である。
西條八十著『西條八十全集7童謡2』(国書刊行会1994/4)*夥しい数の童謡が、おそらく出版社などの求めによって書かれたのであろう。昭和10年代、戦意高揚を意図して作られたものと思われる歌詞がならび、資料として貴重である。内容は多様であり簡単に要約できない。土着的な庶民性が時折顔を覗かせて油断ならない。
内田百間著『百鬼園随筆』(新潮文庫2002/5)*内田百間随筆集、これまで創作を読んで面白いと思ったことはあまりなかったが、この随筆集の各篇には奇妙にとぼけたような味わいがありなかなかに面白かった。随筆が面白いと言うことは、人物が面白いと言うことに等しい。他の随筆も手にとってみたくなった。(画像の挿絵は芥川龍之介が内田のことを描いたものらしい)
荒山徹著『柳生薔薇剣』(朝日文庫2008/9)*サービス満点の剣豪時代小説、著者得意の朝鮮半島との交易史に伝奇小説的な味付けを加味した時代劇特有の殺陣の美学を展開する。電車で立ち読みしていたら、乗り継ぎ駅を乗り越しそうになってしまった。
沼正三著『マゾヒストMの遺言』(筑摩書房2003/7)*家畜人ヤプーの著者によるやや偏執的な随想集、博引旁証を得意とする衒学的語り口は、謎の作家、沼氏の得意とするところだが、ヤプーで見せた読者を引き込むような力強さは感じられない。淡々とした文章の向こうに老いが見え隠れする。