武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 4月第4週に手にした本(18〜24)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
杉本秀太郎著『平家物語』(講談社1996/2)*精緻かつ大胆に平家物語を読み解き、自在に評釈を加えた見事な古典文学随筆。リズミカルな詠うような語り口に載せて、雄渾な平家の世界があたかも組曲でもあるかのように聴き込まれ解き明かされ、平家の世界構造が分かったような気にさせてくれる名著である。
まど・みちお著『まど・みちお全詩集新訂版』(理論社2002/5)*700ページ近い2段組の本文と、初出底本情報付きの索引が付いている。多作な詩人のほぼ全貌が把握できる本、あまりに量が多いので一気には読めず、少しずつ読み進めて楽しんでいる。
◎帚木蓬生著『安楽病棟』(新潮社1999/4)*痴呆老人病院の安楽死問題を、肯定と否定とのグレーゾーンで捕らえた社会派小説、サスペンス力が弱い分、構成に工夫があって読ませる。後期高齢者医療における人間の尊厳とは何かを考えさせられる力作。
デュ・モーリア著/務台夏子訳『鳥/デュ・モーリア傑作集』(創元社文庫2000/11)*ヒッチコックの映画「鳥」の原作が読みたくて手にした。映画よりもこちらの方がスケールが大きく、終わり方に救いがなくストーリーとしては遙かに怖い。鳥たちの襲撃も、ありとあらゆる鳥たちの連携による広域的な総攻撃なので映画とは全く違う、小説にしか描けない言語表現の怖さがある。
野呂邦暢著『夕暮れの緑の光/野呂邦暢随筆選』(みずず書房2010/4)*この作者は若くして亡くなったのに、文章が与える質感はいつも持ち重りがするから不思議、随想風の短文でも、重い直球を投げ込まれたような読み味がして侮れない。不意を突かれてうなってしまうこともしばしば、良い作家だ。
◎杉本圭三郎全訳注『平家物語(一) 』(講談社学術文庫1979/3)*本文―現代語訳―語釈―解説というオーソドックスなスタイルを12巻まで貫く、大部な注釈本の1巻目。
◎佐藤謙三校註『平家物語(上)(下) 』(角川文庫1959/5)*最小限の註が本文下に小さく付いているが、現代語訳や解説は抜きの本文主体。
加藤廣著『信長の棺(上)(下) 』(文春文庫2008/9)*この作者は75歳になってから、この本能寺三部作を書き継いだというのが何とも嬉しい。信長の伝記作者である太田牛一を主人公に据えた堂々たる時代ミステリィ。構想20年何時か書きたいという想いを温め続けて出来上がった作品と書いてある、傑作時代小説。
田村隆一著『田村隆一全集2』(河出書房新社2011/2)*詩作品と散文をほぼ半々に配した全6巻の2巻目、書き継がれた膨大な詩篇が読みたくなって手にしたが、分量が凄い、天性の詩人が田村隆一の本質だったことがしみじみと伝わってくる。洒脱な味のする散文も読みでがある。