武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 7月第3週に手にした本(16〜22)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

婦人之友社編集部編『魔法使いの台所/まとめづくりと手早い料理で夕食用意が30分』(婦人之友社1990/5)*料理本のロングセラーなのか手にしたのは32刷、前書きに全国の経験豊かな主婦のアンケートの回答に基づくとある。食事の内容を豊かにするためには、まとめ造りや作り置き以外に手立てがないことは明らか、そのための工夫を本書では<魔法のタネ>と呼び、ビジュアルかつ簡潔に紹介している。一発勝負のモテナシ料理ではなく、日常的な家庭料理が中心になっているところが平凡だけど良い。20年以上経つのでそろそろ改訂版を出してほしい。
◎今村太平著『漫画映画論』(岩波同時代ライブラリー1992/6)*中心になっている論考は半世紀以上前の1941年刊行のもの。無声映画に音声がついて間もなくの映画史前期に、すでにここまで広く深く映画批評を展開していたことに吃驚、漫画映画を軸にして、音楽や絵画、演劇の古典から現代までを縦横に関連づける躍動的な博識に目を見張った。著者の限りなく豊かな鑑賞眼に敬服するしかない。名著である。
浜田義一郎編/久里洋二絵『とひとひ雨上がり』(書肆山田1981/12)*日本のライト・ヴァースシリーズの4巻目、これは古典編、笑いの中にキラリと光るピリ辛真実を探せば、風土記万葉集の昔から、きっと素晴らしいモノが見つかる気がする。本書はそのほんの一端、「ほれにくい顔が来て買うほれ薬」「れていてもれぬふりしてられたがり」などというフレーズには思わずニンマリしてしまう。合計4巻の良いシリーズだった。
◎ダグラス・H・パウエル/久保儀明・樽崎靖人訳『<老い>をめぐる9つの誤解』(青土社2001/10)*老年期本の名著、レビューで紹介済み。
田村隆一著『田村隆一全集3』(河出書房新社2010/12)*80年代前半、著者60歳前半の頃の作品群、初老の世界がかくも伸びやかに言語表現の豊穣の季節を迎えていたことに吃驚、驚異的な老人文学の開花と言えよう。田村氏は晩成型の詩人だったことに うかつにも初めて気がついた。<荒地>の詩人で、老年期に豊かな実を結んだのは吉本と田村の二人だけなのは何ともさびしい。
◎久住 昌之・ 谷口 ジロー著『孤独のグルメ』(扶桑社文庫2000/2)*輸入雑貨の仕入を業にしている中年男の食べ歩きマンガ、食生活を律する理念も理論ももたないで都会で一人暮らしをしているとどんな食生活になるか。全編を孤独感というか、侘びしさが吹き抜ける感じがして、その点はリアル。このマンガから何を読み取るかは自由だが、こういう食生活だけは御免被りたい。