武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『庭づくりのプロに学ぶ/はじめての庭木手入れ・剪定のコツ』日本造園組合連合会著(家の光協会2008/1)

 良い啓蒙書を読んでいると、読んでいるだけで自分が何だかその分野に通じてきて自然に素人でなくなったような錯覚をおぼえてしまう。実際にやってみると、甘くはないということを悟らされる羽目になるのだが・・・。集合住宅に暮らしている関係で輪番の役員が回ってきて、敷地の植栽の管理について調べる必要がでてきて、数冊手にした本の中で、分かりやすい良い本があったのでご紹介してみたい。

 その一は、『ポケット版 庭師の知恵袋 プロが教える、人気の庭木手入れのコツ日本造園組合連合会編 (講談社プラスアルファ文庫2009/9)。
 内容は、第1章が「伝統庭木、はやりの庭木、の仕立てと手入れ」、第2章が「そのほかの庭木について、庭師の四方山話」と極めてシンプル。メインの第1章は、アイウエオ順に並べられた庭木事典仕立て、四十数種類のよくある庭木について、樹木の特性と管理の仕方について、丁寧に解説してある。
 聞き書きのスタイルで文体を統一してあり、話し手は高齢のベテラン庭師という設定、読んでゆくと聞き書きのせいか、時々話が脱線して、戦前のころの思い出話がでてきたりして、期せずして庭園の変遷が浮かび上がってくる。
 必要な項目だけを拾い読みするだけでは勿体無い。この本の良さは通読してみないと分からない。長い間造園にかかわってきた職人の豊かな知見を、このような形で瞥見できるのは有難い。それにしても、庭師の植物への思いやりが半端ではない、脱帽するのみ。

 もう一冊は、同じ日本造園組合連合会が編著の『庭づくりのプロに学ぶ/はじめての庭木手入れ・剪定のコツ』、こちらの方は、さらに編集の手が加わり、内容が整理されていてもっと分かりやすい。一冊だけならこちらの方をお薦めしたい。
 内容は、大きく分けて前半の<基礎編>と後半の<樹種編>に2分され、最後にきちんとした索引がつく。
 基礎編は、1剪定に関する基礎知識、2花木・果樹に関する基礎知識、3木の健康管理に関する基礎知識、これらの基礎知識の説明が大変に分かりやすい。説明的文章のお手本のような、すっきりとした明快な文章が続く。私は、レンズの曇りがさっとぬぐわれたような爽快さを感じた。この基礎編は一読に値する。
 後半の樹種編は、1緑や樹形を楽しむ樹種の手入れと剪定、2花を楽しむ樹種の手入れと剪定、3実や果実を楽しむ樹種の手入れと剪定、聞き書きの脱線が刈り込まれて、過不足ないすっきりした説明が分かりやすい。文章にも剪定の手が加わった感じがする。
 この国の伝統的な庭園作りにかかわってこられた庭師という職業人の知恵が、おしみなく詰まっているという感じを受けた。軽く見られがちな実用書ではあるが、多くの方に手にとってもらいたい良書である。
 なお、今回の2冊とも、写真は一枚も使われていない。ていねいに描かれたイラストが、必要最小限挿入され、理解を助けてくれている。安易に写真を多用して、視覚化されすぎた類書が多い中でこの良心的は編集姿勢はうれしい。
 庭木に興味のない自然愛好家にも是非読み物としてお薦めしたい2冊である。