武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 イリーナ・メジューエワ・ピアノリサイタル印象記

toumeioj32005-06-14

 ロシアからとてもかわいいピアニストが来るというので早速出かけて行って聴いてきた。いや、見てきたといったほうがいいか(笑)。開演とともにホールの照明が落ち、ステージ中央のピアノの周りだけに5個の天井のライトが当たり、その光の中にすらりとした若い女性が進み出てくる。深い緑色のヴェルベットのロングドレス。身長がありやせているのでほとんど体重を感じさせない歩き方で進む。すべるように優雅にピアノの前で一礼、ほっそりとした腕を伸ばし演奏が始まる。見ていて楽しいピアニストだと、耳と眼の両方の喜びがあって得した気分になる。彼女はそんなピアニストだった。
 肝心の演奏の方はどうだったか。モーツアルトの幻想曲の始まりの例の不気味な和音の塊がドキッとするほどホールによく響いた。モーツアルトの軽く流れるようなメロディーがくっきりと美しく描き出されてゆく。見た目には細くて繊細な感じだが、センチメンタルに流れたりしない芯のある演奏と言えばいいか。ベートーベンの熱情は、男性的な力強さに欠けるが、構成も立派で、十分に説得力のある演奏だった。
 休憩の後のシューマンショパンの名曲集も、叙情を押さえ気味にした輪郭のくっきりした現代女性らしいメリハリのきいた良い演奏だった。プラグラム終了後のアンコールの際の、彼女の流麗な日本語の挨拶の声が楚々としてとてもかわいかった。彼女が得意とする、ロシアの作曲家メトネルの演奏も聴いてみたいと思った。以下は今日のプログラム。

モーツアルト :幻想曲二短調K。397(385g)  :「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲ハ長調K.265(300e)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57〈熱情〉
シューマン:ロマンス嬰へ長調op.28−2/アラベスクハ長調op18
ショパンノクターンハ短調(第13番)op.48-1/ノクターンホ短調(第19番)op72-1 :幻想即興曲嬰ハ短調op。66/ノクターン嬰ハ短調(第20番) :スケルツォ嬰第3番嬰ハ短調op.39