私は、読んで面白かった本の話をするのが大好き。面白かった本を教えてもらうのも大好き。これまでに何と多くの人から素晴らしい本をたくさん紹介してもらったことか、とても数え切れない。直接話を聞いただけではなく、新聞や雑誌、チラシ、本、いろいろなところでやっている、推薦図書にずいぶんお世話になった。
10冊でも100冊でもかまわない。推薦してある本の中から、読んだことのある本を見つけ、推薦者の好みと傾向を探る。どんな趣味や思想傾向の人だろうかと想像する。そして、未読の本の中から一番面白そうな奴を探し出す。大抵、何冊かはどうしても読みたくてたまらない本が見つかる。今なら、インターネットですぐに探し出せるがインターネットのない昔は、図書館と大型書店が頼りだった。神田の古書店街にもよくいった。私にとって、本当に面白い本と出合えることは、生きていて良かったと思える瞬間のひとつ、「これで生きてゆける」とまでは行かなくても、自分の生を彩る大事なアクセントの一つと言えばいいか。
この本の前書きで著者は「本書は、タイトルどおり、日本語で書かれた小説の中から、読者を圧倒し、打ちのめし、衝撃と感動を与えるであろう作品を50編選び出し、紹介・批評したもの」と書いている。この考え方がとても気に入った。ほかにもいろいろな推薦の仕方があると思うが、「すごい小説」という捕らえ方がいい。
1編に5ページほどを使い、最後に、衝撃力、構想力、文章力、浸透力の4観点で5つ星評価をしてくれている。大して客観的な方法と思えないが、でも面白い。既に読んだことのある小説を自分なら星いくつにするか、著者との違いはどうだろう、これも未読の面白本をさがす手がかりに出来る。
中身を読んでいて、<すごい>と言う表現にほとんど出会わない。これがまたいい。凄いものを<すごい>と言われても、何のことか分からない。どのようのすごいのか、他の言葉できちんと説明してくれるのが著者の責任、本文を読んでいくとこの著者の責任感がひしひしと伝わってくる。この本を推薦する理由はここにある。
批評の内容も、こうゆう大胆な本をまとめるだけあってけっこう面白かった。参考にこの本の、すごい小説50編を引用してみよう。あなたの読書の参考になるかもしれない。少し内容が知りたい人は、是非この本を探して手にしてほしい。
1、昭和初期・戦前(大正14〜昭和16)
(1)国枝史郎『神州こうけつ城』
(2)江戸川乱歩『パノラマ島奇談』
(3)夢野久作『ドグラ・マグラ』
(4)島崎藤村『夜明け前』
(5)吉川英治『宮本武蔵』
(6)中里介山『大菩薩峠』
2、戦後①(昭和27〜39)
(7)吉田満『戦艦大和ノ最期』
(8)深沢七郎『楢山節考』
(9)山本周五郎『樅ノ本は残った』
(10)松本清張『ゼロの焦点』
(11)大原富枝『婉という女』
(12)川端康成『眠れる美女」
(13)谷崎潤一郎『ふうてん老人日記』
(14)水上勉『飢餓海峡』
(15)中井英夫『虚無への供物』
(16)北杜夫『楡家の人びと』
(17)武田泰淳『快楽』
3、戦後②(昭和40〜48)
(18)小島信夫『抱擁家族』
(19)高橋和巳『邪宗門』
(20)井伏鱒二『黒い雨』
(21)大江健三郎『万延元年のフットボール』
(22)野坂昭如『骨餓身峠死人葛』
(23)大岡昇平『レイテ戦記』
(24)吉行淳之介『暗室』
(25)三島由紀夫『豊饒の海』
(26)野間宏『青年の環』
(27)有吉佐和子『恍惚の人』
(28)大仏次郎『天皇の世紀』
4、戦後③(昭和50〜63)
(29)山田風太郎『幻燈辻馬車』
(30)島尾敏雄『死の棘』
(31)石川淳『狂風記』
(32)村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』
(33)金石範『火山島』
(34)中上健次『千年の愉楽』
(35)古井由吉『あさがお』(難しい漢字)
(36)富岡多恵子『波うつ土地』
(37)後藤明生『壁の中』
(38)開高健『耳の物語』
(39)森敦『われ逝くもののごとく』
(40)渋沢龍彦『高丘親王航海記』
(41)色川武人『狂人日記』
5、戦後④(平成元〜10)
(42)辻邦生『フーシエ革命暦』
(43)河野多恵子『みいら採り猟奇譚』
(44)宮部みゆき『火車』
(45)村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』
(46)山田詠美『アニマル・ロジック』
(47)車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
(48)高村薫『レディー・ジョーカー』
(49)埴谷雄高『死霊』
(50)清岡卓行『マロニエの花が言った』