武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

この国の教育では、医学と薬学についての基礎的な国民レベルでの一般教養は、小中高段階の教育課程からほぼ完全に排除されている。健康教育の重要な柱となる内容だと思うが、生物で身体の仕組みは学習するが、医学的なアプローチも薬学的なアプローチも考慮の枠外になっているのが現状。こんなことでいいのかとずっと思ってきたこと。

toumeioj32005-09-01

 医療は医師と言う専門家に、投薬は医師の処方箋と薬剤師の処方に排他的独占的に支配され、一般人は医療と投薬の対象者、言い換えれば患者の位置におしとどめられているのが実情。外国の事例は知らないが、医学情報から完全に疎外された結果が、医療過誤が発生する原因の一つになっているような気がしている。
 ここ10年ほど処方された薬についての説明がなされるようになったが、何故その薬が選ばれ、類似の薬とどこがどのように違い、違いにどんな意味があるのか、基礎的な薬についての予備知識がないため、説明を受けてもよく分からないのが実情だった。インフォームド・コンセント(患者への説明と同意)が言われ、患者の権利が回復されつつあるとは思うが、医療や薬についての基礎知識が教育されていないため、十分な理解のための受け皿が患者の側に出来ていないのが現状。
 ではどうするか。自分たちで本を読んだりネットで調べたりして、独自に情報を収集するしかないだろう。そこで、薬に関しての本をめくってみたりして、やっと素人でも何とか分かる気がする本があったので、紹介してみたい。高度な医療や薬学の知識は無理でも、基本的な薬についての考え方ぐらいは身に着けておきたいと思い、たまたま手に取った1冊だったが、なかなか分かりやすく面白かった。
 内容は目次を見ると分かるが、「1、薬の歴史」では、人類初期の薬物が宗教儀式や呪術や迷信と結びついていた時代から、生薬が体系化されていった生薬の時代、科学的な医薬の時代と、簡潔にまとめ、薬の歴史では医療に使われる薬と、快楽を生む薬が長い歴史を持っていることが示される。
 「2、薬はどうやってきくのか」では、薬が効くということはどうゆうことなのか、消化されて体内を循環、目標に到達し、受容体を通して病気の幹部に働きかける経過を、順番に分かりやすく解説してくれる。副作用についてもここで触れられている。
 「3、医療に使う薬」と次の「4、快楽を生む薬」の2章では、薬を大きく2つに分け、概括的だが薬についてのある程度のまとまった解説があたえられ、ほぼ現時点での薬の現況が把握できるようななっている。タバコもお酒も快楽を生む薬に分類、わが意を得たり。著者の考える薬の定義が幅広くてよい。 
 続いて、「5、新しい薬を作る」で新薬開発の様子を知らされ、最後に「6、21世紀、そして未来へ」で今後の展望が遺伝子治療などの将来への期待を通して語られて終わりとなる。
 たった160ページ程度の小冊子だからできる思い切った要約が、内容をすっきりさせ、わかりやすさを演出している。この一冊ですべてが分かるわけではないが、薬についての広い視野と基本的な予備知識は手に入る気がした。バックに入れておけば、電車の中でもすぐに読める。もっと詳しく知りたい人のための参考文献も最後に示されている。薬についての易しい入門書として一度手にとってみてはいかが。