武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

本棚の奥から懐かしい本が出てきた。ネットでざっと検索してみたが、入手するのが難しそうなので簡単に紹介してみたい。

toumeioj32005-10-03

 表題の通りこの本は、音楽の記録メディアがレコード全盛だった頃のジャズ名盤案内書。この国のジャズファンは、この頃はほとんどレコード鑑賞を通してその魅力に触れ、ファンに留まったり、マニアに成長したりして、ジャズという音楽の深みに嵌っていったものだった。
 奥付を見るとこの本の初版は1968年に出ている。音楽の大衆化を記録メディアの発達を通して見ると、1960年から1980年までの僅か20年間がLPレコードによるステレオ録音時代、1980年以降現在まで続いているのがCDの時代、次世代の記録メディアが何になるか今のところ見当がつかない。
 ジャズの発達と世界的な普及は、アメリカ資本主義を中心とするLPレコードの発達普及と一致している。この粟村政昭さんのジャズ・レコード・ブックも、SPからLPへ、ステレオ録音の発達の時期のジャズ録音紹介の本だということになる。前書きにも出てくるが、レコードコレクターなどと言う高尚な趣味人がいたのもこの時代ならではのこと。かく言う私も、200枚近いLPレコードが、部屋の一角を今なお占領して、チトもてあましている。
 この本は、そんなLPレコード華やかなりし時代の、しかも、モダンジャズが創造的でハラハラドキドキするような魅力を振りまいていた頃の、堅実な入門書でありレコード購入の良質の手引書だった。
 内容を簡単に紹介すると、ジャズプレーヤー約190人ほどを、ABCのアルファベット順に並べ、演奏の特徴と著者が推奨する絞り込まれた名盤紹介を簡潔にまとめてあり、ポケットサイズで手ごろで使いやすかった。ジャズの歴史にも幅広い表現領域にもバランスよく目配りが行き届いていて、少し辛口の批評言語とあいまって、ゆるぎない確信に満ちた語り口が誰よりも信頼できるような気がした。
 良くも悪くもこの本は、ジャズが最もジャズらしく輝いていた時代の中から生まれ、その中で潔く完結している。音楽表現だけではないが、表現には、もうそれ以上先の発展が望めないような完成などなく、次の世代が完成したと見えたものを乗り越えてゆくのが宿命。マイルスの「ビチェス・ブリュー」を理解できないと認める著者の誠意はわかるが、ジャズを狭く限定することに意味があるのか疑問を感じたところもあった。
 ずいぶんお世話になった本なので、残してあったのだと思うが、これに代わるCD時代の優れたガイドブックにまだ出会っていないような気がしている。読み返してみたら、今現在この本でジャズのCDを探しても十分に通用するような気がした。あえて、昔のレコード・ブックを紹介して所以である。