武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『冒険小説ベスト100』北上次郎著 (発行本の雑誌社)

 面白い読み物の書評家・推薦者として最も信頼している一人の北上次郎さんの書評本を見つけたので紹介しよう。このブログで以前に『冒険小説論』http://d.hatena.ne.jp/toumeioj3/20070507を紹介したことがあるが、この本はその副読本にあたる本という位置づけ。冒険小説論は19世紀末から現代までの、英米仏日の冒険小説を時系列でまとめ論じた素晴らしい本だったが、その範囲でまとめたべスト100なので、選択の範囲はかなり広い。

 英米仏日から選んでいるので、冒険小説の広がりを、こういうレベルと選択基準でまてめているんだな、ということが分かり、改めて納得するものがある。記憶をたどってみても、半分以上未読のものがあるので、少しずつ読んでゆくガイドにしようという気になった。北上次郎さんの簡潔でポイントを押さえた紹介文を読んでいると、どの本もみな読みたくなる。読んだことのあるものの紹介文を読むと、懐かしくなったり、こういう見方もあるのかと感心したりして、書庫に残っているものを改めて引っ張り出してみたり、こんなに刺激的な読書ガイドはあまりない。
 おそらくこの<ベスト100>の背後には膨大な読書量が控えているのだろう。その意味でたくさんの労力とコストをかけて選出した<ベスト100>だろうと思い、書名と作者名だけを全部引用させてもらおう。興味のある方は、本の方を是非読んでみて。100冊の面白本に対して、100回の全力投球の解説、どれを読んでも手抜きなしの熱い語り、よほどの本好きでなければこんな芸当は無理、冒険小説読みのプロだけのことはある、さすが、脱帽。

ベスト100のうち国産物を抜き出してみた。北上さんの冒険小説の枠組みがわかる気がする。30点に絞り込んであり、苦労したことだろう。
002 『裸の町』 五木寛之
003 『海狼伝』 白石一郎
005 『檻』 北方謙三
010 『昭和水滸伝』 藤原審爾
012 『龍神丸』 高垣眸
014 『人語島大秘記』 下村悦夫
015 『燃える波濤』 森詠
016 『北の怒濤』 谷恒生
020 『暗殺教程』 都筑道夫
026 『蒼茫の大地、滅ぶ』 西村寿行
027 『江戸城心中』 吉川英治
034 『非合法員』 船戸与一
039 『海から来たサムライ』 矢作俊彦司城志朗
041 『失なわれたものの伝説』 田中光二
043 『エトロフ発緊急電』 佐々木譲
046 『傭兵たちの挽歌』 大蔵春彦
047 『夕日と拳銃』 檀一雄
054 『眠狂四郎無情控』 柴田錬三郎
056 『飢えて狼』 志水辰夫
060 『幻獣少年キマイラ』 夢枕獏
064 『カディスの赤い星』 逢坂剛
067 『惑星CB-8越冬隊』 谷甲州
069 『新撰組』 白井喬二
070 『三十三時間』 伴野朗
075 『黄土の奔流』 生島治郎
080 『狼男だよ』 平井和正
086 『西海道談綺』 松本清張
089 『謀殺のチェス・ゲーム』 山田正紀
093 『狙撃者』 谷克二
098 『ごろつき船』 大佛次郎
ここからが英米仏そのほかの冒険小説ベスト100
001 『銀塊の海』 H・イネス
004 『マフィアヘの挑戦1/戦士起つ』 D・ペンドルトン
006 『自由への逃亡』 A・V・フィゲロウア
007 『穴』 J・ジョバンニ
008 『ソロモン王の洞窟』 H・R・ハガード
009 『樹海戦線』 J・C・ポロック
011 『白衣の騎士団』 C・ドイル
013 『類猿人ターザン』 E・R・バロウズ
017 『ナヴァロンの要塞』 A・マクリーン
018 『征服王コナン』 R・E・ハワード
019 『アラスカ戦線』 H・O・マイスナー
021 『アフリカの女王』 C・S・フォレスター
022 『鷲は舞い降りた』 J・ヒギンズ
023 『殺意の海へ』 B・コーンウェル
024 『モヒカン族の最後』 J・F・クーパー
025 『飛ベ!フェニックス』 E・トレーバー
028 『非情の海』 N・モンサラット
029 『利腕』 D・フランシス
030 『ピーター・シンプル』 F・マリアット
031 『ウェザースパイ追跡』 P・ケリガン
032 『A-10奪還チーム出動せよ』 S・L・トンプスン
033 『ダルタニャン物語』 A・デュマ
035 『ジャグラー』 W・P・マッギヴァーン
036 『伯爵夫人の舞踏会』 G・ド・ヴィリエ
037 『大洞窟』 C・ハイド
038 『奇妙なピストル』 F・リック
040 『カジノ・ロワイヤル』 I・フレミング
042 『ゼンダ城の虜』 A・ホープ
044 『針の眼』 K・フォレット
045 『緑のマント』 J・バカン
048 『復讐するメッセンジャー』 S・ジェイムズ
049 『踊らされた男たち』 D・カイル
050 『気球に乗って五週間』 J・ヴェルヌ
051 『虎の眼』 W・スミス
052 『ファイアフォックス』 C・トーマス
053 『原生林の迫撃』 D・バグリイ
055 『血の絆』 A・J・クィネル
057 『一人だけの軍隊』 D・マレル
058 『銃撃の森』 R・B・パーカー
059 『エニグマ奇襲指令』 M・バーHゾウハー
061 『アイガー・サンクション』 トレヴェニアン
062 『水晶の栓』 M・ルブラン
063 『砂の渦』 J・ジェンキンズ
065 『暗殺者』 R・ラドラム
066 『鎧なき騎士』 J・ヒルトン
068 『スカラムーシュ』 R・サバチニ
071 『風に乗って』 S・ウッズ
072 『高く危険な道』 J・クリアリー
073 『フラッド』 A・ヴァクス
074 『宝島』 R・L・スティーヴンソン
076 『恐怖の背景』 E・アンプラー
077 『秘密機関』 A・クリスティー
078 『パピヨン』 H・シャリエール
079 『最後に笑った男』 B・フリーマントル
081 『もっとも危険なゲーム』 G・ライアル
082 『ツバメ号とアマゾン号』 A・ランサム
083 『ゲリラ海戦』 B・キャリスン
084 『アンドロメダ病原体』 M・クライトン
085 『シェーン』 J・シェーファー
087 『人魚とビスケット』 J・M・スコット
088 『甦った鷲たち』 J・ディモーナ
090 『紅はこべ』 B・オルツ
091 『北壁の死闘』 B・ラングレー
092 『デイジー・ダックス』 R・ボイヤー
094 『超音速漂流』 T・プロック
095 『透明人間の告白』 H・F・セイント
096 『死と空と』 A・ガーヴ
097 『ロマノフ家の金塊』 B・ガーフィールド
099 『火よ燃えろ!』 J・D・カー
100 『悪党パーカー・人狩り』 R・スターク

 この本の値打ちは、あくまでも、100冊の推薦文ないし紹介文にあるので、興味を持たれたら、是非入手してしてほしい。作品に即しているので、冒険小説論より具体的ではるかに分かりやすく面白い。