武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『北斎漫画―初摺(全)』 絵葛飾北斎 (発行小学館)

 凡例では次のように本書の内容を説明している。「本書は文化11年(1814)より65年間という長年月にわたって刊行されつづけた、葛飾北斎(1760〜1840)の筆になる絵手本(木版画)シリーズ『傳神開手北斎漫画』初編〜15編の初摺本全15冊を、各表紙と大方の広告ページを除いて原寸色刷り復刻の上、記事・資料を付して全一巻にまとめたものである。」

 「世界初、原寸色刷り全編復刻、ついに完成。北斎が弟子用テキストとして描いた「絵手本」15冊を、原寸カラー復刻した決定版」これが今回紹介する北斎漫画全集の宣伝コピー、読めばその通りなのだが、この国の美術史は言うに及ばず、世界の美術史の中でも、圧倒的なスケールで存在感を示す巨人、葛飾北斎の情熱と才能の一端を知る格好の書物として、この北斎漫画全集をお勧めしたい。
 部分的には、展覧会や北斎を取り上げている美術書などで見たことはあったが、機会があればその全作品をじっくり見てみたいと念願していた。その北斎漫画が、初摺りの原色で全部見られるとあって、興奮する気持ちを抑え押さえして、一日に何冊かずづ15冊全部をついに鑑賞できた。感想は、やはり北斎は素晴らしい、稀代の天才と呼んでも褒めすぎることはない、と改めて再確認した。

 お値段が12600円とかなり高価な本なので、私は図書館から2週間借りて、じっくり楽しむという方法をとった。北斎漫画だけでも900ページほどのスペースをしめて、その他に解説が少し付くので、大変に分厚くてずしりと持ち重りがする。机の上に置いて、ゆっくりとページをめくって楽しむしかないが、充実した時間が過ごせることは間違いない。写実と幻想が入り混じっているので、北斎の時代の歴史風俗と、その時代の人々が幻視していた想像上の怪異が面白い。克明に活写されている庶民の様々な姿態が、北斎の類い稀れなデッサン力を伝えていて、眺めていると遙かな時間を江戸時代へと遡行する感じがする。実に素晴らしい。究極の大人の絵本と言ったらいいか。
 ビジュアルにまとめ上げた森羅万象の百科事典のような趣があり、北斎の絵筆は物事の外観と細部を実に見事に描き出す。絵のお手本、美術教科書のような役割を想定したものらしいが、どのページを眺めていても限りなく楽しいし、飽きない。所有したい気持ちがわき起こるが、思いだしたら図書館から借りて眺めることにしよう。ほとんどの図書館においてあると思うので、ぜひ手にとって見てほしい。なかったらリクエストして蔵書に加えてもらうといい。全国の公立図書館に必ず置いてほしい一冊。
 なお、下記のサイトに、北斎の作品がアップされている。「富嶽百景北斎画譜・ 北斎漫画」の主要作品が無料の高画質で閲覧できる。<山口県立萩美術館・浦上記念館 作品検索システム 絵本の世界>と命名されている。是非ご覧いただきたい。
http://www.hum.pref.yamaguchi.jp/ehon/ehon.htm