武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『岸辺のふたり』 監督マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィッド (制作2000年) 原題 FATHER AND DAUGHTER

 新聞などで評判になっていたので見たいと思っていたのだが、機会に恵まれなくてそのまま忘れてしまっていた。ネットで遊んでいて、ふとしたきっかけでYouTubeで見られることが分かり、楽しく見させて貰った。印象に残ったことを記してみよう。
①<8分間の永遠>というこのアニメのキャッチコピーは、なかなか上手い。主人公の女の子の生涯を象徴的に描き出した作品の内容を、一言で言い切っている。説明抜きに映像だけが次々に提示されて、時間の経過と共に押し流されてゆくので、見ている者の脳裏にいくつもの解釈と疑問符が地層のように積み重なり、次第に画面の動きに引き込まれてしまった。2回見て見落としていた細部を再発見したりして、やっと見たという実感が掴めた。一気に8分間を駆け抜けるような目眩くリズム感がとてもいい。
②女の子と共に、画面の中に終始登場する自転車の描き方が、単純さの中に意味を複雑に変化させて見事、他の乗り物ではこうはいかない。ぽつんと残された自転車、坂道の頂上付近での喘ぎ、自転車の大と小、順風と逆風、ひっくり返る時の音などなど。自転車は奥が深い。
③一義的に解釈を決めかねるような最後の方の画像の配列が上手い。干上がって水がなくなった水辺の情景、水の中に消えてゆく年老いた女、再び干上がった水辺、土に半分埋まったボート、ボートに横たわり動かなくなる年老いた女、走りながらみるみる若返ってゆく女、再会を果たしひしと抱き合う父と娘。死後に再会する二人によって流れを切断してしまうエンディングとその暗示性、短編を膨らませる技術の宝庫のような作品。
④アコーデオンとピアノを主体にした音楽が効果的。一切台詞がないので音楽と効果音だけが、画像に意味を添える。試しに音を消して見てみたら、絵が平板になってしまいあせった。音楽が絶妙なナレーションの役割を果たしている。
 大きなスクリーンで見てみたいとは思うが、パソコンのモニターでもそれなりに楽しめます。興味のある方は、以下のURLをクリックしてみて。下のURLは公式サイトのアドレスです。
http://www.youtube.com/watch?v=P7-XXhQ5n90
http://www.crest-inter.co.jp/kishibe/