武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 隠れたベストセラー「カバヤ文庫」、時代を先取りした週刊児童文庫


 1952年(昭和27年)から1954年(昭和29年)までの僅か2年半ばかり、この年代に少年少女期を過ごした人達にとって、「カバヤ文庫」の読書体験は、少年期特有の無垢な輝きに包まれて、忘れられないノスタルジーの一コマとなっている。短期間の前例も後続もない希有な出来事だったので、体験した世代の幅は狭く、話題にしても共通の話題となって盛り上がることは少ないが、全国制覇した流行現象だったらしく、通じる人は全国各地どこの出身者にもいる。 (画像はデジタル岡山大百科で公開されている同文庫1号の表紙、背表紙、裏表紙の引用、これだけでも懐かしい)
 学校の図書室も隙間だらけで、ほとんどの家庭には本棚もなく、本好きの子ども達は食べものだけでなく、本にも飢えているような、自然だけはやたらに豊かな、今から考えるとあんな時代があったなんて信じられないような時代だった。懐かしい。
 カバヤ食品のサイトから引用するとカバヤ文庫の概要は以下のようなものだった。

カバヤ文庫』は、カバヤキャラメルのおまけとして登場しました。その第1巻第1号が出たのは、(1952)昭和27年8月3日のことでした。『カバヤ文庫』の記念すべき第一号の題名は、『シンデレラひめ』。ペローの作品、「シンデレラひめ」「森の中のねむりひめ」「おやゆびこぞう」の3つのお話が収められていました。以下、(1954)昭和29年の第12巻第15号まで、159冊が1週間に一冊のペースで発行されつづけました。まさに、隠れたベストセラーですね。

 今風に言うと、キャラメルの販売促進キャンペーンに付けられた、景品の一種、記憶ではキャラメルの箱の中に、カードが入っており、5点券、10点券などがあったが、大当たりは50点券で、50点を集めてお店に持って行くと、何冊かの本の中から1冊を選ぶことができたように覚えているがハッキリしない。少年向けと少女向けがあり、しばらくは本が欲しくてカバヤキャラメル以外のお菓子には目がいかなかった。少なくとも私のまわりでは、この販促効果は抜群だった。1週間に1冊のペースは凄い、週刊少年文庫など、その後の出版史でも例がなのではないか。
 他の地方出身の方によると、キャラメルに入っていたカードは5種類、カ、バ、ヤ、文、庫をそろえるやり方だったという。中でも(文)のカードが希少で、なかなか当たりにくく子ども心を悩まさせられたらしい。いろいろなカードスタイルがあったのかもしれない。
 あるブログには、次のような記述があった。

カバヤ文庫」は、カバヤキャラメルの中に入っている文庫券をためて50点になれば文庫一冊がもらえたのです。大当たり10点、、カバ8点、ターザン2点、ボーイ、チータ1点でした。

 本の方は繰り返し読んだり、友達と交換しあって読んだり、作りが良くなかったせいもあり傷みも早く、実家のどこを捜しても1冊も残っていない。親たちには余り人気がなかったので、ゴミとして捨てられてしまったのかもしれない。このシリーズで読書の楽しみを覚えた人も多いのではないか。ためになる読書ではなく、世知辛い現実を忘れるための、何とも言えない束の間の夢の時間をカバヤ文庫が教えてくれた。
 ある本を読んでいて子ども時代のシーンにカバヤ文庫が出てきたので、さっそくネットで検索してみたところ、素晴らしいサイトを見つけた。それは、(岡山県立図書館所蔵)カバヤ児童文庫、ほとんど全てのカバヤ文庫が、画像でそっくり閲覧できるという、何とも素晴らしいデータを公開している。閲覧用のソフトをダウンロードすることになるがすべて無料、私は表紙だけを何冊も開いて、わき上がるような嬉しいノスタルジーに満たされた。興味のある方は、以下のURLをクリックしてみて。
http://www.libnet.pref.okayama.jp/mmhp/kyodo/kabaya/bunko/index.htm