武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『NHKためしてガッテン流 死なないぞダイエット』 北折一著 (発行アスコム2007/9/10)


 この世に生まれ出て60有余年、意識してはかつて一度もダイエットに取り組んだことはなかった。先日、「ためしてガッテン」という生活情報番組をみて、「計るだけダイエット」の話題が面白かったので、関連の書籍を図書館から借りてきた。一読、何時誰が襲われるか分からない<突然死>を如何に回避するかを導入に、明快な語り口にのせて語られるダイエットのすすめ方が気に入ったので、内容を紹介したい。(右のカバーの写真の露骨なこと、裸本を電車で読むのはチト辛い気がしませんか)
 内容に入るその前に、この国の現代社会に占めているいるダイエット関連市場の実態を、ほんの少し覗いておきたい。ネット上を探してみると、市場調査会社の富士経済のサイトに「メタボ対策市場の調査を実施−2008年内服型商品とその他メタボ対策商品・サービス市場の合計は1兆6,613億円−」という記事が見つかった。https://www.fuji-keizai.co.jp/market/08068.html詳しくは、URLを見て頂くとして、08年度予測で1兆6千億円の規模とは、何とも吃驚。
 もう一つ、矢野経済研究所のマーケットレポート「2008年版 ダイエット関連市場の実態と展望」によるとhttp://www.yano.co.jp/market_reports/C50109700、ダイエット関連市場の概略を次のように整理されている。目次の一部を引用させてもらおう。

  1-4-1.食事・医療関連市場
    (1)特定保健用食品
    (2)ダイエットサポート食品
    (3)ダイエットサプリメント
    (4)漢方薬(一般用)
    (5)肥満治療(メタボリック外来・肥満外来)
  1-4-2.健康管理関連市場
    (1)特定保健指導サービス
    (2)セルフケア健康機器(血圧計)
    (3)セルフケア健康機器(体重体組成計)
    (4)セルフケア健康機器(歩数計
    (5)在宅検診
  1-4-3.運動関連市場
    (1)フィットネスクラブ
    (2)コンビニ(簡易)フィットネス
    (3)家庭用フィットネス機器

 富士経済と矢野研のカテゴリーを比べてみると、メタボ市場とダイエット市場に相当の重なりと若干のズレがあることが分かるが、どちらで線引きをしても、1兆円を遙かに超える巨大な産業分野を形成していることがわかった。メタボもダイエットも現代日本社会に組み込まれた、大規模な社会経済現象としての側面があることをまず確認しておきたい。ダイエットは今や市場経済の中で蠢く人気商品群である。
 長い前置きになってしまったが、さっそく中身にはいろう。概要は後で引用する目次を見れば分かるので、一読して気に入ったところを拾い上げてみよう。
(1)何故ダイエットするのかという動議付けに、1章と3章を当て、<突然死><メタボリックシンドローム>を克明に分かりやすく解説してくれていること。分かっているようで曖昧なままの現代人の二大心配事を、しっかりと啓蒙して、じわじわと恐怖感盛り上げてくれる。番組のディレクターの文章らしく、この導入部分が実に上手い。逃げ道を一つずつふさいでゆく展開は、ある意味何とも怖い。読者をダイエットに駆り立てるという意味では、宗教や革命運動の文章に例えてみたくなるほど。
(2)間違っているとされる各種ダイエット法への批判が厳しい。常識で考えれば直ぐ分かる類の怪しげなダイエット法が、どうして次から次へと出てきて話題になるのか不思議に思っていたが、本書の2章に書かれているダイエット法批判を読むと胸のつかえが取れる気がする。勿論、偽物をどんなに追求しても何も得るところはないので無駄な深追いをしないのがいい、ざっくりと切り捨てて爽快。
(3)そしてダイエットの成功例、兵庫県尼崎市自治体職員と茨城県日立地区の民間企業の従業員、そして著者自身の三つの具体的なダイエットの取り組み例がわかりやすい。この具体例の説明が、テレビが得意とするドキュメンタリーの手法から来るのか、すっきりとしていてとても分かりやすい。ここまでが本編の前置き、ここまでの前置き部分の読者の掴み方が実に上手い。
(4)そしていよいよ理論編、これにさかれる章はたった1章、くどくないのがいい。実は「計るだけ」で自動的に痩せるわけではないことがここでやっと告げられる。当たり前ですよね。ではどうすればいいか。この部分だけでも書店で立ち読みする価値あり、本書のヘソにあたる部分、理論編なので少々理屈っぽい。分かりやすく書いているところよりも、最低限に分量を抑えてあるところを評価したい。ダイエットの止め時についても、きちんと書かれているのがいい。ダイエットとは宗教なき社会のゆるやかな断食週間のようなものかもしれないと考えて納得した。
(5)最後の2章は、実践の入門篇と応用篇、KHKの生活情報番組から生まれた本らしく、実践のノウハウについても抜かりない。エクセルの記録シートまで利用できるようにして、最後に、ダイエットの究極の目的は、痩せることにあるのではなく、「自分を好きになること」にあると書くあたり、チト出来過ぎているような気がしないでもない。ダイエットがやっと地に足をつけるようになったかなと思わせられる内容だった。
 最後に、目次を引用しておこう。

【プロローグ】人生は自分だけのものだろうか?
【第1章】「突然死」を他人ごとと思っている人へ
【第2章】間違いだらけのダイエット常識
【第3章】メタボリック症候群って結局、何?
【第4章】ルポ・「死なないダイエット」に成功した人々
【第5章】「脳」でやせる!”計るだけ”の単純明快なメカニズム
【第6章】実践・『計るだけダイエット』入門編
【第7章】実践・『計るだけダイエット』応用編
【エピローグ】ダイエット後に知る、新しい価値観
【付録】ダイエットシートの使い方

 これまでダイエットなんて考えたこともなかったと言う中高年や退職して太り気味の高齢者の方々に、是非お勧めしたい。ダイエットの世界は、美容を気になさる女性陣に独占させておくには勿体ないほど面白い世界だと言うことが分かります。