武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 増殖する週刊誌コラム=デキゴトロジー>事件イラストレイテッド>ナンデモロジー学問

 現役の頃、家族そろって贔屓にして、毎週のように出入りしていた蕎麦屋があった。その店の雑誌置き場に、長い間、週刊朝日が1ヶ月分いつも置いてあった。興味を引く記事があると拾い読みした。懐かしい「デキゴトロジー」もそこで読んだ。重箱の隅をつつくような、好奇心だけで成り立っているような世相の影のトピックがなんとも面白かった。
 最近、ふとした切っ掛けで、長期連載の人気コラム、デキゴトロジーのことが気になって調べてみた。雑誌そのものは、読み捨てが習いの週刊誌なので、改めて手に取ってみることはかなわなかったが、調べてみて幾つか分かったことがあった。
デキゴトロジーと言う名のコラムは1978(昭和53)年にスタート。ちなみに週刊朝日は1922年に創刊。
②1980年(昭和55年11月3日号)から、<事件イラストレイテッド>と称して、夏目房之介のイラストが付き、ビジュアル化した。
③1982年(昭和57年9月17日号)より、夏目のイラストが好評だったのだろう、「ナンデモロジー学問」と言う名称のイラスト主体のイラスト付きコラムに発展、91年9月まで連載された。バブルに湧いた80年代をほぼカバーするトータル467回の長期連載となった。夏目房之介の特異な才能はここで開花したといってよい。その後の活躍もまた素晴らしい。
 コラム自体の奇想天外な面白さもさることながら、この連載コラムにかかわったスタッフの中から、夏目房之介をはじめとして、何名かの文筆家が育っている。「週刊朝日風俗リサーチ特別局」に集まったメンバーが楽しみながら記事制作に携わったと思われるが、よほど活力のある集団だったものと推測せざるを得ない。
 amazonをリサーチしてみると、12冊の文庫がデキゴトロジーシリーズとして刊行されているほかに、夏目房之介のイラスト絡みのものが、今のところ6冊出ている。私の好みで言えば、このイラスト入りの6冊が抜群に面白い。多作な夏目作品のベストテンに是非入れたいと思っているB級傑作群である。
 今回は長年愛読している、夏目房之介のイラストが入っている6冊を紹介してみよう。

(1)『デキゴトロジー・イラストレイテッド』 週刊朝日風俗リサーチ特別局+夏目房之介著 (発行新潮社1983/7/5)
 あとがきによれば内容は、昭和53年11月3日号から55年12月26日号の2年余り週刊朝日に掲載されたものをまとめたとある。各ページ、左右の見開き構成で、右側がテキスト、左側がイラスト、内容は全く同じだが、内容が内容だけにテキストだけでは単なる風俗ゴシップなので少し物足りない、イラストを含めて全部見終わると不思議な満足館が味わえる。毎回、スタイルに工夫を凝らした夏目房之介のイラストがテキストに勝っている頁が多い。

(2)『デキゴトロジー・イラストレイテッドPARTⅡ』 週刊朝日風俗リサーチ特別局+夏目房之介著 (発行新潮社1984/12/5)
 こちらの方は続編、昭和56年1月16日号から57年9月18日号までをまとめたもの。レイアウトは正編とそっくり同じ、毎回スタイルを変える夏目の表現力に感心する。その巧者な戯画化精神は見事という他はない。類を見ない鬼才と呼ぶしかないような気がする。戦後の多様に発展をとげたマンガ表現の、どの枠組みにも納まりきらない驚異の表現力である。「漱石の孫」というのも決してダテではない。

(3)『夏目房之介の学問』 夏目房之介週刊朝日著 (発行朝日新聞社1987/9/30)
 ついに夏目のイラストが前面にでてきた「ナンデモロジー学問」連載のまとめ、スタイルはイラストが見開きで先行して、後ろに添え物のようにテキストが付く。
 最後の方に「学問事始」「メタ学問学」と称して、連載開始のいきさつと、制作苦労話が戯画化されてのっている。この国がバブル街道をまっしぐらに突き進んでいた頃の風俗戯画として、何とも言えない面白さがつまっている。

(4)『夏目房之介新編学問虎の巻』 夏目房之介著 (発行新潮社1992/10/10)
 前作で<学問>は終りかと思っていたら、5年後に新潮社から<学問>の続編がでた。スタイルは、見開き2頁のイラストとその下3分の1のスペースにテキストが付く。初めて掲載年月日が記されるようになったのは嬉しい。面白さは、これまでと変わらない。長く続いたので、工夫をこらしたページレイアウトにも幾つかのパターンがあることが分かってきた。それにしても毎週欠かさず、9年間もこの連載を持続できたことを、一つの偉業として讃えておきたい。残念なのは、前467回の全貌がまとめられていないこと、どこかの出版社でこの週刊朝日の連載の総てをまとめて出版してくれないものだろうか。

(追記)
(5)『夏目房之介新編学問龍の巻』 夏目房之介著 (発行新潮社1994/60/20)
 前作の<虎の巻>が好評だったのか、続きが出た。<恐怖症の世界>シリーズや<世界観>シリーズは、今読んでも見事な傑作だと思う。一部に、以前の作品とのダブりがあるが企画のまとまりとしては、それも許せる。

(6)『夏目房之介の恋愛学』 夏目房之介著 (発行ネスコ1989/9/21)
 これを見落としていた。入門編、地上編、天上編の3部に分けられた地上編が、ナンデモロジー学問からの流用だった。全体の3分の一近くを占めており、16話が楽しめる。天上編が珍しい夏目さんの漫画週刊誌むけの既発表マンガなのも嬉しい。細い線描が奇妙に色っぽいが、決してエロマンガではない。ファンだったら単行本で入手しておきたい。