武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『デキゴトロジー』 週刊朝日風俗リサーチ特別局編著

 夏目房之介さんの傑作イラストコラムについて調べているうちに、その母体のデキゴトロジーのことが気になり出した。週刊朝日に連載され、1年1冊のわりで単行本にまとめられ、文庫に入れられて、全部を楽しめるようになっている。よほど人気があるのか、文庫だけでも全16巻が出ている。
 どれを拾い読みしても、必ずある程度面白い、暇つぶしに最適のB級読み物である(失礼)。事件にも新聞種にもならない、庶民の風俗の落ち穂拾い、続けて読んでいくと、不思議なことに少し人間嫌いが緩和されてくる。庶民生活の哀感が行間から滲み、人が生きて行く日々の雑事が何とも言えず貴重なもののように思えてくる。
①些細なエピソード集なので、記述する文章に曇りや拘りがあると、すぐに読む気がしなくなる。内緒話を、気の置けない仲間の耳の奥に、そっと吹き込む時のような、努めてさり気なく簡潔に、勿体ぶらずにサラリと語りきってしまうのがコツなのだろうか。どんな方が書いているのか、文章が上手くもなく下手でもなく、上手く中庸を保っている。このレベルを維持するのは容易なことでないはず、見事と言うほかない。新聞記事のような中性的な文体だが、もっと柔らかくて軽いのがいい。
②やはり、ネタの収集が大変ではないだろうか。週刊誌のネタがボツになったようなものが多いが、意図的に集めようとすると、簡単ではないはず、個人が見聞きする庶民生活の珍談奇談は、狭い範囲でしか流通しないもの、読んで行くと地域的な偏りを感ずるもののかなりの全国区、広域の取材網をもつ週刊誌だからできたことなのだろう。週のサイクルで集めてくる苦労を思うと、頭が下がる、18年間も続けるとなると並大抵のことではない。偉業と言っていいだろう。
③個々のエピソードは、極めてリアルで具体的、だが何となく軽い、人の生き死にかかわるほど重要ではなく、天下国家を揺るがすような政治色もない人の世の風俗となると、うわさ話のような語り口になってしまうのだろうか。決して品がいいとは言えないが、さもありなんと安心して、それでも先が読みたくなる不思議、後を引かない小さなエピソードばかりなので、チョットした空き時間のささやかな楽しみにはもってこい。
④バカバカしいと切り捨ててしまう方も多いだろうが、こういうチマチマとして出来事で、人の世は動いているはず。紀元前からのデキゴトロジーのような記録が残っていたら、さぞ面白かっただろうにと思う。記録されない性質のものが、ちゃんと記録されたと言うことに拍手を送りたい。だが、ここに紹介されたのが自分だとわかったら、傷つく人が多いのではないだろうか、少なくとも、私個人はデキゴトロジーに載るのはゴメンこうむりたい。
 参考までに、文庫化されたものの巻数と収録期間をまとめてみた。

デキゴトロジーno,1【ホントだからまいっちゃうの巻】 78年11月3日号〜80年12月26日号
デキゴトロジーno,2【ホントだから困っちゃうの巻】 81年1月2・9日号〜81年12月25日号
デキゴトロジーno,3【ホントだからやんなっちゃうの巻】82年1月1・8日号〜82年12月24・31号
デキゴトロジーno,4【ホントだから笑っちゃうの巻】 83年1月7日号〜83年12月23・30日号
デキゴトロジーno,5【ホントだからまた読んじゃうの巻】84年1月6日号〜84年12月28日号
デキゴトロジーno,6【ホントだからズッコケちゃうの巻】85年1月4日号〜85年12月27日号

デキゴトロジーno,7【ホントだから情けねえ!の巻】 86年1月6日号〜86年12月28日号
デキゴトロジーno,8【ホントだからトンでもね!の巻】 87年1月2・9号〜87年12月25日号
デキゴトロジーno,9【ホントだからやってらんね!の巻】88年1月1・8号〜88年12号30日号
デキゴトロジーno,10【ホントだからたまんね!の巻】 89年1月6日号〜89年12月29日号
デキゴトロジーno,11【ホントだからやめられね!の巻】 90年1月5・12日号〜90年12月28日号
デキゴトロジーno,12【ホントだから勘弁できね!の巻】91年1月〜91年12月

デキゴトロジーno,13【ホントだからもうおしまい!の巻】92年1月〜92年12月
デキゴトロジー①RETURNS−週刊朝日編 93年10月22日号〜95年3月17日号
デキゴトロジー②愛のREDCARD−週刊朝日編 94年12月9日号〜95年11月24日号
デキゴトロジー③恋の禁煙室−週刊朝日編 95年12月8日号〜96年11月1日号