武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第1週に手にした本(28〜3)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

中井英夫著『中井英夫全集3/とらんぷ譚』(東京創元社1996/5)*「虚無への供物」と双璧をなす中井作品の頂点をなす短編小説集。物語が作り物であることをこれほどに意識した作品群も珍しい、思い入れたっぷりの身振りで展開される幻想物語を一話ずつ繙く愉しみが54話、トランプ一組分詰まっている。何というマニエリスムへの耽溺、表現意識の高揚と表出レベルの高さからむしろ散文詩集と呼びたくなる。言葉による名品が随所に見つかる物語の宝石箱。
岡田斗司夫著『オタク学入門』(新潮OH!文庫2000/10)*かつてオタクのレッテルを貼られた社会風俗現象を、創造的な知性の社会的温床として捉え返す「オタク文化論」、好きなことにとことん夢中になって、時代の地平を乗り越える若者達は、何時の時代にも社会に波風をたてながら新しい分野を切り開いてきた。オタク達の良質な部分を分かりやすく解説してくれて参考になった。廉価本コーナーの掘り出し物。
秋山徳蔵著『改訂増補仏蘭西料理全書(上)』(晴風社1955/10)*天皇の料理番と呼ばれた秋山徳蔵氏の多数ある料理本の最重要図書、フランス料理のレシピだけでなく、全書を名乗るだけあって材料から、調理器具の扱い方からサービスの心得にまで説き及ぶ大著。元版が出たのは今から100年も前なので、当時としては他を圧する料理本だったろうことは想像に難くない。他のところで著者が、完成するのに10年かかったと書いていたが、さもありなん。読み物と言うよりやはり全書と言うべき大冊である。料理の世界に生きる男の執念の書。日本料理史に残る名著。
ディケンズ著/佐々木直次郎訳『二都物語上中下』(岩波文庫1936〜37)*このところ入れ込んでいる戦前の名翻訳家の作品。第一書房のポオ翻訳で一躍名を知られるようになり、岩波書店に活動の舞台を広げた頃の翻訳第三弾。後ろに付された詳細な訳注とあらすじの解説が若き翻訳家の意気込みを語っている。★★★の価格表示が懐かしい。(ちなみに★表示は岩波文庫創刊から1975年3月まで、75年4月からは☆に変わったとある)