武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 11月第5週に手にした本(26〜2)

*3日晴れて4日天気が崩れる晩秋のサイクルが冬を引き寄せてゆく。冬型の気圧配置になると、関東平野は雲ひとつない冬晴れとなり、日本海側には曇りや雪のマークが出る。幼い頃の、日本海側の曇りがちな冬の日々を思い出した。子供の頃、毎年のように長靴を買い換えていた、使う日が多くて何年も持たなかったのである。

幸田露伴著『五重塔』(岩波文庫1994/12改版)*密度の高い文体と、漢語と和語と江戸言葉を巧みに結びつけたルビ(振仮名)の自在な使い方に改めて感心した。この頃すでに、漢字の読み方を示すルビと、漢字にふった和語による意味を示すルビと、漢字にふった和語による表現のにひと工夫を施した味のあるルビなど、露伴は様々なルビの可能性を追求している。

アンドレシャンソン著/芹沢光治良細田直孝訳『愛と死のアドリーヌ』(角川文庫1957/9)*今はすっかり忘れられた小説技術に卓越した物語の名匠シャンソンの中編小説、フランスの片田舎に暮らす没落貴族の母娘が体験する第二次世界大戦の悲劇。脆いガラス細工のような、繊細な美しさに満ちた小編。

太宰治著『太宰治/ちくま日本文学全集』(筑摩書房1991/3)*太宰を手にするなんて、何十年ぶりだろう、ユニークな作品選択が面白そうだったので廉価本コーナーで入手。前半の説和的な語り口の飄々とした随想風の作品を愉しんた。

星野道夫著『星野道夫著作集5/ノーザンライツ』(新潮社2003/8)*アラスカにおけるアメリカの核実験計画に興味があって久しぶりに再読、ふとしたきっかけでアラスカに人生を刻むことになった個性あふれる人々の美しいドキュメンタリー、文章の巧みな展開に改めて舌を巻いた。