武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 《世界名詩集大成(全18巻)の<2〜5>フランス》(発行平凡社)

 戦後の一時期、フランスの文学や哲学、映画や音楽などがこぞって翻訳紹介されていたことがあった。ブームだったような気がするが、外国の文物の紹介が特定の国に偏る傾向は、その後も続いているような気がする。ここしばらくは、英語文化圏のものの流入が圧倒的で、フランス語やドイツ語、スペイン語の文化圏からのものがそれに続き、それ以外からのものは本当に少ない。気になる現象だ。(画像は、当該全集のフランス編の4巻分の箱の背表紙)

 さて、フランス文学が実存主義などとともに流行していた時代のせいかもしれないが、この全集のフランスの詩に割くスペースと内容の豊富なこと、今になってざっと眺めてみても圧倒的、目を瞠るばかり。取り上げている詩人の多いこと、翻訳を担当している翻訳者の多彩なこと、この面でも「二度と実現不可能な企画」と担当者が言うだけのことはある。私は、フランス文学が好きなので、この4巻にはずいぶんお世話になった。フランス文学専攻ではない私のような普通の読者にとっては、これで当分の間は十分すぎるほどだった。
 この中から気に入った詩人を見つけて、他の詩集を探しても、この全集以外には見つからないということが何度もあった。私は、研究者ではないので、編集のされ方について当否を云々することはできないが、詩の雑誌などをめくっても、紹介される範囲はこの全集の幅を大きく超えることのない時代が長く続いていた。それほどの圧倒的なフランス編の内容だった。
 内容の概略を知るためにフランス編4巻の目次を、長くなるが全部引用してみよう。

第2巻 フランス編(1)
形見分け(抄)ヴィヨン(佐藤輝夫訳)
遺言書(全)ヴィヨン(佐藤輝夫訳)
断章詩(抄)ヴィヨン(佐藤輝夫訳)
オード四部集(抄)ロンサール(窪田般弥高田勇訳)
オード集(抄)ロンサール(窪田般弥高田勇訳)
恋歌集(抄)ロンサール(窪田般弥訳)
続恋歌集(抄)ロンサール(窪田般弥訳)
新続恋歌集(抄)ロンサール(窪田般弥訳)
エレーヌヘのソネ(抄)ロンサール(窪田般弥訳)
詩 集(抄)シエニエ(谷長茂・佐貫健訳)
詩 集(抄)ヴァルモール(高畠正明訳)
瞑想詩集(抄)ラマルチーヌ(秋山晴夫訳)
運 命(全)ヴィニー(平岡昇訳)
東方詩集(全)ユゴー(辻昶訳)
秋の木の葉(抄)ユゴー(辻昶訳)
薄明の歌(抄)ユゴー(松下和則訳)
光と影(抄)ユゴー(井上究一・小池健男訳)
懲罰詩集(抄)ユゴー(松下和則訳)
静観詩集(抄)ユゴー(松下和則訳)
街と森の歌(抄)ユゴー(横山正二訳)
ジョゼフ・ドロルムの生涯と詩と意見(抄)サント・ブウヴ(阿部良雄訳)
夜のガスパール(抄)ベルトラン(伊吹武彦訳)
幻想詩篇(全)ネルヴァル(中村真一郎訳)
初期詩集(抄)ミュッセ(小松清訳)
新詩集(抄)ミュッセ(小松清訳)
サントール(全)モーリス・ド・ゲラン(窪田般弥訳)
七宝と螺鈿(全)ゴーティエ(斉藤磯雄訳)
【アンソロジー

第3巻 フランス編(2)
悪の華初版(全)ボードレール福永武彦訳)
悪の華再版以降(抄)ボードレール福永武彦訳)
パリの憂愁(全)ボードレール福永武彦訳)
詩 集(全)マラルメ(諸家訳)
イジチュール(全)マラルメ平井啓之訳)
よい歌(全)ヴェルレーヌ橋本一明訳)
言葉なき恋歌(全)ヴェルレーヌ橋本一明訳)
叡 智(全)ヴェルレーヌ河上徹太郎訳)
黄色い恋(抄)コルビエール(篠田一士訳)
地獄のある季節(金)ランボー寺田透訳)
着色版画(全)ランボー寺田透訳)
詩 集(抄)ランボー中原中也福永武彦訳)
マルドロールの歌第一の歌(全)ロートレアモン栗田勇訳)
マルドロールの歌第二〜第六の歌(抄)ロートレアモン栗田勇訳)
王女の庭(抄)サマン(内藤濯訳)
水都幻談(全)レニエ(青柳瑞穂訳)
なげぎぶし(抄)ラフォルグ(窪田般弥訳)
最後の詩(全)ラフォルグ(吉田健一訳)
スタンス(抄)マレアス(村上菊一訳)
騒がしき力(抄)ヴェルハーレン(渡辺一民訳)
触手ある都会(抄)ヴェルハーレン(渡辺一民訳)
シモオン(全)グールモン(堀口大學訳)
ヴァランチーヌ(抄)ヌーヴォー(福永武彦訳)
ビリティスの歌(抄)ルイス(窪田啓作訳)
フランスのバラード(抄)フオール(村上菊一訳)
【アンソロジー

第4巻 フランス編(3)
若いパルク(全)ヴァレリー平井啓之訳)
魅惑(全)ヴァレリー(諸家訳)
東方所観(抄)クローデル山内義雄訳)
五つの大讃歌(抄)クローデル(粟津則雄訳)
三声のカンタータ(全)クローデル中村真一郎訳)
聖会暦(抄)クローデル(斉藤正二訳)
かなたのミサ(抄)クローデル(山本功訳)
明けの鐘から夕べの鐘まで(抄)ジャム(手塚伸一訳)
桜草の喪(抄)ジャム(手塚伸一訳)
エーヴ(抄)ペギイ(角南千代子訳)
詩 篇(抄)ファルグ(福永武彦訳)
夜の復讐(抄)ジャリ(安藤次男訳)
全詩集(抄)ジャリ(安藤次男訳)
アルコール(全)アポリネール(滝田文彦訳)
カリグラム(抄)アポリネール(江原順訳)
中央実験室(全)ジャコブ(高畠正明訳)
平調曲(全)コクトー堀口大學訳)
レオーヌ(全)コクトー(小佐井伸二訳)  
全世界(全)サンドラルス(望月芳郎訳)
十九の詩集(抄)サンドラルス(望月芳郎訳)
流 謫(全)サン・ジョン・ペルス(片山正樹訳))
オロロン・サント・マリ(全)シュペルヴィエル飯島耕一訳)
無罪の囚人(抄)シュペルヴィエル飯島耕一訳)
引 力(抄)シュペルヴィエル安藤元雄訳)
夜に捧ぐ(全)シュペルヴィエル安藤元雄訳)
ミロス詩集(抄)ミロス(片山敏彦訳)
アベイ派詩人抄(尾崎喜八・片山敏彦訳編)
【アンソロジー

第5巻 フランス編(4)
はずむ球(抄)ルヴェルディ(高村智訳)
風の泉(抄)ルヴェルディ(高村智訳)
羅針盤(抄)スーポー(江原順訳)
磁 場(抄)スーポー・ブルトン(佐藤朔訳)
地の光(抄)ブルトン(稲田三吉訳)
とける魚(抄)ブルトン(稲田三吉訳)
白髪の拳銃(抄)ブルトン(菅野昭正訳)
フーリエに捧げるオード(全)ブルトン(菅野昭正訳)
処女懐胎(抄)エリュアール(大岡信訳)
義務と不安(全)エリュアール(安藤次男訳)
愛すなわち詩(全)エリュアール(安藤次男訳)
詩と真実42年(抄)エリュアール(安藤次男訳)
ドイツ人の逢引の地で(抄)エリュアール(安藤次男訳)
祝火(抄)アラゴン(小島輝政訳)
上々気嫌(抄)アラゴン(小島輝政訳)
迫害する被迫害者(抄)アラゴン橋本一明訳)
エルザの瞳(全)アラゴン(小島輝政訳)
ダレヴァン蝋人形館(全)アラゴン(小島輝政訳)
神経の秤(全)アラゴン清水徹訳)
詩 集(抄)アルトー篠田一士訳)
暗 闇(全)デスノス(清岡卓行訳)
愛なき夜々の夜(全)デスノス(窪田般弥訳)
大きな賭(抄)ペレ(江原順訳)
打手なき槌(捗)シャール(橋本一明訳)
内壁と草原(全)シャール(橋本一明訳)
反頭脳(抄)ツアラ(伊藤晃訳)
近似的人間(抄)ツアラ(橋本一明訳)
続アフリカの印象(抄)ルーセル(粟津則雄訳)
黒い詩・白い詩(抄)ドーマル(清水徹訳)
夜は動く(抄)ミショー(飯島耕一訳)
悪魔払い(抄)ミショー(小海永二訳)
土地なしジャン(抄)ゴル(佐藤朔訳)
証 人(全)ジューヴ(池田一朗・粟津則雄訳)
レスピューグ(全)ガンゾ(平田文也訳)
言 語(抄)ガンゾ(平田文也訳)
独房で作られた33のソネット(抄)カスー(谷長茂訳)
種子の樽(抄)オーディベルティ(窪田般弥訳)
ギター万歳(抄)オーディベルティ(窪田般弥訳)
ことば(抄)プレヴェール(大岡信訳)
運命のとき(抄)クノー(三輪秀彦訳)
物の味方(抄)ポンジュ(佐藤朔訳)
生きる希い(抄)ギルヴィック(粟田勇訳)
詩 集(抄)デュ・パン(柳沢和子訳)
なんじの擁護者たちとともに(抄)エマニュエル(白井健三郎訳)
【アンソロジー

 いかがですか。最後の巻など、今見ても、翻訳者といい紹介されている詩集といいちっとも古びていないことに吃驚、かつて、この国の文芸に携わる人々が素晴らしく元気はつらつとしていた時代があったことがお分かりいただけるのではないでしょうか。