《世界名詩集大成から10年たって起きたこと》
敗戦から15年、平凡社が企画した画期的な全集、「世界名詩集大成」の内容を目次を引用しつつ、数回に分けて紹介した。この国の戦後復興のエネルギーの、最良の部分を垣間見るような、素晴らしい全集だった。今思い起こしても、ワクワクするような企画だった。(画像は、10年後に発行された「世界名詩集全26巻の第1巻、内容はすべて10年前のコピーだった、一字一句違わないところが何とも悲しい。」)
そして、9年後の1970年。平凡社は「世界名詩集」と銘打った全集26巻を発行する。18巻から26巻へ、冊数が大幅に増えたので、期待は大きかった。函もしっかりしていて装丁も立派だった。だがしかし、内容はと見れば、10年前の内容から遥かに後退したもので、数冊の詩集以外は、10年前のコピーの域を出ないものだった。<世界>と言う名前を冠するのさえ恥ずかしい内容。
詩が好きでなく、詩でお金儲けすることしか考えない企業の姿勢が、露骨に出た全集。心ある執筆者は、この企画に参加するべきではなかったのではないか。こんなことをやっていては、真面目な読者の足は遠のいてしまう。
残念なことに、それ以降、世界中に広がる夥しい数の詩の表現をキャッチするアンテナが、この国から育たなくなくなってしまった。少なくとも、良心的な商業出版としては、コストをかけるに値しない領域になってしまった。今更、悪口を書くのはつらいが、自らの大きな可能性を、自ら摘み取ってしまった悲しい出来事として、つい思い出してしまった。
26巻全巻の目次を引用しておこう。◎を付けたところだけが、新登場の詩集、それ以外は、すべて10年前のコピー、こんなのありか。
《イギリス》
<1>ダン・・・唄とソネット(篠田一士、篠田綾子、永川玲二、高松雄一、沢崎順之助訳)
ブレイク・・・経験の歌(土井光知訳)
ブレイク・・・天国と地獄との結婚(土井光知訳)
<2>バイロン・・・マンフレッド(小川和夫訳)
キーツ・・・レイミア、イザベラ、聖女アグネス祭の前夜、その他の詩集(大和資雄、出口泰生訳)
<3>◎イェイツ・・・薔薇(尾島庄太郎訳)
イェイツ・・・葦間の風(尾島庄太郎訳)
◎ロレンス・・・最後の詩集(安藤一郎訳)
<4>エリオット・・・荒地(西脇順三郎訳)
オーデン・・・見よ,旅人よ!(加納秀夫訳)
スベンダー・・・詩集(安藤一郎訳)
《ドイツ》
<5>ゲーテ・・・西東詩集(井上正蔵、奥津彦重、高安国代、手塚富雄訳)
<6>ゲーテ・・・ローマ悲歌(小牧健夫訳)
ゲーテ・・・日記帳(井上正蔵訳)
ヘルダーリン・・・詩集(手塚富雄、谷田友幸、片山敏彦訳)
<7>ノヴァ一リス・・・聖歌(笹沢美明訳)
ハイネ・・・ドイツ冬物語(井上正蔵訳)
<8>ゲオルゲ・・・魂の一年(手塚富雄、富士川英郎、大山定一訳)
ホーフマンスタ一ル・・・詩集(富士川英郎訳)
<9>リルケ・・・時祷集(尾崎喜八、富士川英郎、大山定一訳)
リルケ・・・薔薇(山崎栄治訳)<10>リルケ・・・鎮魂歌(富士川英郎訳)
リルケ・・・ドウイノの悲歌(手塚富雄訳)
ヘッセ・・・新詩集(高橋健二訳)<11>カロッサ・・・詩集(片山敏彦訳)
◎ベン・・・肉(生野幸吉訳)
《フランス》<12>ゴーチエ・・・七宝とカメオ(斎藤磯雄訳)
ネルヴァール・・・幻想詩編その他(中村真一郎訳)<13>ボードレール・・・悪の華(福氷武彦訳)<14>マラルメ・・・詩集(福永武彦、白井健三郎、平井啓之、窪田啓作他訳)
ヴェルレーヌ・・・叡智(河上徹太郎訳)<15>ベルトラン・・・夜のガスパール(伊吹武彦訳)
ランボー・・・ある地獄の季節(寺田透訳)
ランボー・・・着色版画集(寺田透訳)
ロートレアモン・・・マルドロールの歌(栗田勇訳)<16>レニエ・・・水都幻談(青柳瑞穂訳)
ラフォルグ・・・最後の詩(吉田健一訳)
◎ラフォルグ・・・聖母なる月のまねび(伊吹武彦、中江俊夫、宮内侑子訳)<17>ヴァレリー・・・若いパルク(平井啓之訳)
ヴァレリー・・・魅惑(白井健三郎他訳)
コクトー・・・平調曲(堀口大學訳)<18>ジャム・・・桜草の喪(手塚伸一訳)
クローデル・・・三声のカンタータ(中村真一郎訳)<19>アポリネール・・・アルコール(滝田文彦訳)<20>エリュアール・・・愛すなわち詩(安東次男訳)
アラゴン・・・エルザの瞳(橋本一明訳)
《アメリカ》<21>ポオ・・・鴉その他の詩集(島田謹二訳)
ホイットマン・・・草の葉(長沼重隆訳)<22>サンドバーク・・・シカゴ詩集(安藤一郎訳)
パウンド・・・ヒュウ・セルウィン・モーバリイ(岩崎良三訳)
《ロシア》<23>プーシキン・・・抒情詩(稲田定雄訳)<24>マヤコフスキー・・・戦争と世界(飯田規和訳)
マヤコフスキー・・・150000000(小笠原豊樹訳)
◎エセー二ン・・・詩集(田沢八郎訳)
《イタリア》<25>ウンガレッティ・・・破船も愉し(三浦逸雄訳)
◎クヮジーモド・・・そしてすぐに日は暮れる(河島英昭訳)
カルドゥッチ・・・魔神に捧ぐる頌(三浦逸雄訳)
《スペイン》<26>マチャード・・・寂寞(鼓直訳)
ヒメ一ネス・・・石と空(荒井正道訳)
ロルカ・・・ジプシー歌集(会田由訳)
このブログでは、何かを否定したり貶したすることは、極力、しないつもり、だが、時として、褒めた勢いで否定的なことを書くこともたまにはある。許されよ。