武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 《世界名詩集大成(全18巻)の<16〜18>(日本篇1・2、東洋篇)》(発行平凡社)1960年

 18巻の全集の中で、一番苦労したのは、この日本篇だったのではないか。世界の名詩集に入れるに値するこの国の詩集をどれにするか、何を基準にして、どれを取りどれを外すか、議論が分かれたことだろう。16巻めを見ると、今ではなかなか目にする機会のないものが並ぶ。17巻目も、なるほどこれを入れたのかと、選出してある詩集のレパートリーを楽しむ。それにしても、今現在、生存していらっしゃる方が皆無、現代詩と銘打ってもかくのごとし。人は確実に、一つの例外もなく、死ぬと言うこと、しかも、あっという間もなく、ほんのしばらく生きていて、たちまちいなくなると言う事実に、改めて気付かされ、愕然。話が変な方向にそれてしまった。

 さて、最後の18巻め、東洋篇が面白い。中国篇では、魚返善雄さんの日本語訳などリズムを前面に押し出した斬新な翻訳、口ずさんでみると自然に頬の筋肉が緩んでしまう。この国の伝統的な漢文学の枠を外してしまった、今読んでも新鮮さ溢れるお仕事。
 ほかにも、インド、中東諸国からの紹介が、数は多くないが貴重な収穫、ほかではめったにお目にかかれない詩編ばかり、予備知識を全くもたないので、巻末の詩史や巻頭の解説などを手がかりに、ときどき気が向いた時に拾い読みしてきた。叙情的なものが好みなので、そんな傾向のものを読んでいると、感じ方の類似になんだかホッとすることがある。
 情報化社会とはいうものの、詩の世界をとってみても、情報の流れには著しい偏りがあることに気付く。この全集がもっている奥行きと幅をもった、詩の情報が、今現在どこかにあるだろうか。
 16巻から18巻までの目次を引用する。

第16巻 日本(1)
楚囚之詩(全) 北村透谷
透谷集(抄)  北村透谷
湖處子詩集(全)宮崎湖處子
若菜集(全)  島崎藤村
夏 草(抄)  島崎藤村
落梅集(抄)  島崎藤村
天地有情(全) 土井晩翠
鐵幹子(抄)  与謝野鐵幹
暮笛集(抄)  薄田泣菫
ゆく春(抄)  薄田泣菫
二十五絃(抄) 薄田泣菫
白羊宮(全)  薄田泣菫
わかば(抄) 蒲原有明
獨絃哀歌(抄) 蒲原有明
春鳥集(抄)  蒲原有明
有明集(全)  薄原有明
無絃弓(抄)  河井酔茗
塔 影(抄)  河井酔茗
孔雀船(全)  伊良子清白
横瀬夜雨詩集(抄)横瀬夜雨
邪宗門(抄)  北原白秋
思ひ出(全)  北原白秋
雪と花火(抄) 北原白秋
白金ノ獨楽(抄)北原白秋
水墨集(抄)  北原白秋
廃  園(全) 三木露風
白き手の獵人(抄)三木露風
食後の唄(全) 木下杢太郎
木下杢太郎詩集(抄)木下杢太郎
【アンソロジー】湯浅半月他
日本詩史1(野田宇太郎


第17巻 日本(2)
<近代詩>
路傍の花(抄)   川路柳虹
道 程(全)    高村光太郎
智恵子抄(抄)   高村光太郎
月に吠える(全)  萩原朔太郎
青 猫(抄)    萩原朔太郎
純情小曲集(全)  萩原朔太郎
抒情小曲集(全)  室生犀星
藍色の蟇(抄)   大手拓次
太陽の子(抄)   福土幸次郎
展 望(抄)    福士幸次郎
聖三稜玻璃(全)  山村暮鳥
殉情詩集(全)   佐藤春夫
我が一九二二年(全)佐藤春夫
月光とピエロ(抄) 堀口大學
人間の歌(全)   堀口大學
転身の頌(全)   日夏耿之介
黒衣聖母(抄)   日夏耿之介
砂 金(抄)    西條八十
海 港(抄)    柳沢健,熊田精華,北村初雄

<現代詩>
こがね虫(抄)   金子光晴
鮫(全)      金子光晴
海の聖母(全)   吉田一穂
蛙(全)      草野心平
春と修羅(抄)   宮沢賢治
戯言集(全)   高橋新吉
中野重治詩集(抄) 中野重治
大 阪(抄)    小野十三郎
戦 争(全)    北川冬彦
軍艦茉莉(抄)   安西冬衛
あむばるわりあ(全)西脇順三郎
体操詩集(全)   村野四郎
測量船(全)    三好達治
南窗集(全)    三好達治
鶴の葬式(全)   丸山薫
青い夜道(抄)   田中冬二
在りし日の歌(全) 中原中也
わがひとに與ふる哀歌(抄)伊東静雄
萱草に寄す(全)  立原道造
【アンソロジー】 加藤介春他
日本詩史第2 (野田宇太郎)

第18巻 東洋篇
<中国>
詩経国風(全) (魚返善雄訳)
楚 辞(全) 屈原(毛塚栄五郎訳)
古詩源(抄) 沈徳潜編(金岡照光訳)
唐詩選(全) 李攀竜編(毛塚栄五郎、金岡照光、阿部正次郎訳)
楽天詩集(抄)白楽天魚返善雄訳)
寒山詩(抄) 寒山ほか(魚返善雄訳)
詞選正篇(抄) 張恵言編(阿部正次郎訳)
【中国・アンソロジー】(金岡照光訳)

<インド>
リグ・ヴェーダ(抄)   (辻直四郎訳)
長老の詩・長老尼の詩(抄)(前田恵学訳)
季節のめぐり   カーリダーサ(田中於莵也訳)
雲の使い(抄)  カーリダーサ(田中於莵也訳)
処世百頌(抄)  バルトリハリ(松山俊太郎訳)
恋愛百頌(抄)  バルトリハリ(松山俊太郎訳)
解状百頌(抄)  バルトリハリ(松山俊太郎訳)
牛飼いの歌(抄) ジャヤデーヴァ(田中於莵也訳)
歌のいのり(抄) パント(土井久弥訳)
金色の光(全)  イクバール(沢英三訳)
【インド・アソソロジーシュードラカ他】(田中於莵也他訳)

<中東諸国>
ハーフェズ詩集(抄)  ハーフェズ(沢英三訳)
ルバイヤート(全)   オマル・ハイヤーム(沢英三訳)
古代アラブ詩選(抄)  ムハッダル編(前嶋信次訳)
現代アラブ詩選(抄)  アーベリー編(前嶋信次訳)
レイラとメジヌン(抄) フズリ(峯俊夫訳)
抒情詩篇(抄)     フズリ(峯俊夫訳)
抒情詩篇(抄)     バーキー(峯俊夫訳)
【中東・アソソロジー】 サーディー他(沢英三他訳)

中国詩史     (魚返善雄
インド詩史    (田中於莵也)
「中東諸国詩」概説(沢英三、前嶋信次、峯俊夫)

 これで、世界名詩集大成18巻全部の紹介を終了します。