武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

詩の鑑賞

 石垣りんの四詩集のご紹介

ハルキ文庫版の「石垣りん詩集」を手にして、これまでまとめて読んだことのなかった石垣りんの4冊の詩集を急に読みたくなった。折に触れて読み、気に入っていた戦後詩人だったが、これまで総括的に読んだことはなかった。読んでみて、これは得難い経験となっ…

 詩人鳥見迅彦の<詩集・山の三部作>(3)

第三詩集『かくれみち』は、1983年に文京書房から発行された。第二詩集からまたしても14年後、作者73歳の時の詩集である。第2詩集「なだれみち」で、精神と身体に纏い付くような呪縛から自らを解き放って自由な言語空間にたどりついた詩人の生涯は、やがて老…

 詩人鳥見迅彦の<詩集・山の三部作>(2)

第二詩集『なだれみち』は、1969年に創文社より発行された。55年から69年までの14年間の作品の中から、山に関係するものを89篇選んだと<あとがき>にある。著者59歳ときの詩集である。「山」に関係しない作品の試みもあっただろうが、詩集にまとめるほどに…

 詩人鳥見迅彦の<詩集・山の三部作>(1)

若い頃、強く引かれた詩人の一人に鳥見迅彦(とりみはやひこ)がいる。最近、ふと思い出して調べようとしてみたが、忘れられた詩人らしく、情報がほとんど入手できなかった。分かったことは僅かしかない、列挙してみよう。 ①明治43年(1910年)2月5日神奈川…

 「人生処方詩集」 エーリッヒ・ケストナー著 小松太郎訳 (発行角川文庫1966/4/30)

今はなき寺山修司は、この詩集のコンセプトが気に入り、自分でも同名のアンソロジーを編んで新書を作ったりしていた。読んでみるとケストナーのこの詩集は、題名となっている編集方針もさることながら、個々の詩編が大変に素晴らしく、私は長年愛読し、手放…

 二つの村上昭夫詩集『動物哀歌』 村上昭夫著 (発行思潮社1968/11/1)(発行思潮社現代詩文庫1999/12/31)

1冊目の村上昭夫詩集は「動物哀歌」だった。68年にH氏賞を受賞したことを受けた再版で、序文を書いた村野四郎氏の編集だったらしい。66年に300部発行された元の「動物哀歌」には、全部で193編の詩編が収録されていたのが、この時点で77編に精選された。私が…

 『いそがなくてもいいんだよ』 岸田衿子著 (童話屋1995/10/1)

「童話屋」の編集者田中和雄さんが蒐集した詩のアンソロジーは楽しい。分かりやすくて深く爽やかな詩編を集めた「ポケット詩集」が、ロングセラーを続けているのも納得できる。その名編集者が、岸田衿子さんの詩を集めた詩集を見つけたので手に取った。 岸田…

 『詩集・若葉のうた―孫娘・その名は若葉(増補版)』 金子光晴著 (発行勁草書房1974/1/10)

たくさんある金子光晴の詩集の中で、一番好きな詩集がこの「若葉のうた」、光晴自身の老いの寂寥と、産まれたばかりの幼気な孫娘への愛隣が交錯して、束の間の生の輝きが見事に掬いあげられた珠玉のような名品である。世代や個を越えて続いてゆく命の連鎖が…

 『のはらうたⅠ』 工藤直子著 (発行童話屋1984/5)

装丁、レイアウト、本文レイアウト、内容の構想、内容そのものなどなど、1冊の詩集を構成するすべての条件において、これほどバランスよく作られた本を他に知らない。小型の本なので児童書のコーナーに並んでいると全く目立たないが、おそらく子ども達には到…

 『マザー・グースのうた 全5巻 』 谷川俊太郎訳 堀内誠一イラスト (発行草思社 1975/01 )

30年以上前に出た古い絵本、ロングセラーを続けて現在もなお現役、今でも新刊本が入手できる素晴らしい出版物、全部で5巻からなる安くない本だが、どれか1冊手にしたら全部ほしくなるにちがいない。 英米文学を少しでも読むと、きっとどこかでおめにかかるイ…

 『詩集「三人」』金子光晴/森三千代/森乾/著 (発行講談社)

詩人金子光晴の未刊の私家版詩集が、古書市で見つかったというニュースを聞いて、出版されないかと期待していが、今年になって本になった。戦争中の金子光晴の家族愛については、子どもを兵役から守るための行動や、発表のあてもなく密かに書きためていた疎…

 笹原常与の詩論における「見る自己の確立」

ネットを検索していてたまたま笹原さんの筆名を、古い教育雑誌の目次の中から見つけ、珍しい冊子を入手した。角川書店発行の「国語科通信NO.30 特集現代詩へのアプローチ」という48ページ足らずの小冊子、昭和50年12月1日発行、西暦になおすと1975年。30年以…

 笹原常与第2詩集「井戸」とロダン

この詩集の表紙に使われているのは、ロダンの彫刻「三人のファウナ」の切り抜き画像。この作品は、国立西洋美術館が所蔵している名品の一つ。ファウナとは、森の妖精のこと、無邪気に踊る三人の若い裸の娘像。体重を失ったかのように軽々として三人の体がふ…

 『町のノオト』 笹原常与詩集(発行國文社1958/9/20)

この詩集は、今から50年前の、限定200部というささやかな出版物だったので、その存在を知って約40年、入手したいと思いつつ果たせなかった、私にとっては幻の詩集だった。最近になって、きまぐれにある日ネット上を検索していて、売りに出ているのを…

『私―谷川俊太郎詩集 』谷川俊太郎著 (発行思潮社2007/11/30)

谷川俊太郎さんの一番新しい詩集、当たり外れのない、この国では珍しい本物のプロの詩人だと思ってきたが、何年か前、minimalという詩集を読み、「しばらく詩から遠ざかりたいと思ったことがあった」と書いた後書きを読み妙に納得した。その詩集の呟きのよう…

 『日本詞華集』 西郷信綱・廣末保・安藤次男編(発行未来社)

古代から近代までのこの国の詩作品を選び、1冊にまとめたアンソロジーとして、身近なところに置いておきたい本として、この本を凌ぐ本はまだ出ていないと思うので、お勧めしたい。私が持っているのは1958年発行のものだが、当時としては大変に立派な装…

 『詩人の墓』 谷川俊太郎詩・太田大八絵 (発行集英社)

半年前に出たばかりの谷川俊太郎さんの最新詩集、と言うよりも、太田大八さんとの詩の絵本というべきか。ちょっとクレーに似た優しい感じのする水彩主体の抽象画に、四行の詩を配置、全体で詩人の生涯を物語ることになる長編詩。 いつものように分かり易い言…

 《世界名詩集大成から10年たって起きたこと》

敗戦から15年、平凡社が企画した画期的な全集、「世界名詩集大成」の内容を目次を引用しつつ、数回に分けて紹介した。この国の戦後復興のエネルギーの、最良の部分を垣間見るような、素晴らしい全集だった。今思い起こしても、ワクワクするような企画だっ…

 《世界名詩集大成(全18巻)の<16〜18>(日本篇1・2、東洋篇)》(発行平凡社)1960年

18巻の全集の中で、一番苦労したのは、この日本篇だったのではないか。世界の名詩集に入れるに値するこの国の詩集をどれにするか、何を基準にして、どれを取りどれを外すか、議論が分かれたことだろう。16巻めを見ると、今ではなかなか目にする機会のな…

《世界名詩集大成(全18巻)の<12〜15>(ロシア、ソヴィエト、北欧・東欧、南欧・南米)》 (発行平凡社)1960年

僅か半世紀にも満たない期間の北ヨーロッパの現代政治の激動が、この全集にも反映して、ロシア篇がロシアとソヴィエトの別の巻になっている。既に、ソヴィエトという国家形態が存在しない今となっては、複雑な感慨にかられてしまうが、この全集の発行当時、…