武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『石川岩男のたのしいツーリング入門・旅ゆくライダーのために』 石川岩男著 (発行交通タイムス社1983/6)

 我が家の子ども達がある程度大きくなり、休日にオートバイを押し出し、ツーリングにでも出かけてみようかと思いだした時期、本屋で何気なく手にした一冊。表紙をめくって吃驚、そこにあったものは著者の遺影と編集部の追悼文。「たのしいツーリング入門」の導入としては何とも異例、こういうレイアウトにすることに、社内で反対する人がいなかったのかしら、縁起でもないレイアウトの本だが、私はその異色ぶりが気に入り、その場で購入。30代後半から再開したツーリングの手引書として、しばらく愛読する本となった。
 ツーリングの手引書としては、盛りだくさんでまとまりも良く、とてもバランスよく編集された本だったが、内容に特段の個性も感じられず、ライダーとしての石川選手を知る手掛かりにはほとんどならなかった。あまりに癖のない文章とオフロードからオンロードまでの幅広い内容だったので、編集部が相当に手を加えたことが分かる本。
 文章に個性は感じられないが、内容の一部にこれは石川選手が喋ったか書いたかしたと思われるところがあるので紹介しよう。第2章の「ツーリングに必要なライディング実践テクニック」のところに、<教習所では教えない実践向きの岩男式ハンドグリップ法>の部分と<転ばない岩男式コーナリング力学>このほかにも何か所か<岩男式>称するところがある。
 さすがというか、この本の中ではコーナリングに触れた部分がとても詳しく具体的で熱がこもっている。石川選手の乗り方がすこし伝わってくるような気がする。本書の一番の読みどころ、興味のある方は、ここだけでも読んでみる価値はある。ただ、何故かこの部分だけはかなり難しくて、一読したくらいではなかなか飲み込めない。2章だけ奇妙に骨がある。
 本書の目次を引用しておこう。

第1章 基本装備とプランニング
第2章 ツーリングに必要なライディング実践テクニック
第3章 ツーリングのためのセーフティ・ライディング
第4章 楽しいキャンプツーリング
第5章 いざというとき役立つツーリング・アドバイス
第6章 全国ツーリング・ベストコースガイド
巻 末 全国キャンプ場ガイド

 オートバイ雑誌のツーリング特集号みたいな構成、第2章が本書の白眉。次に、裏表紙にのっている石川選手のプロフィールを引用してみよう。

昭和30年12用25日、東京・葛飾区生まれ。
MCFAJのノービス250ccクラスに、1976年に初陣(中古のTZ250)、初優勝。
更に、同シリーズに5戦出場5連勝と、華々しい英姿を飾る。
また、MFJのレースにも参戦し、年間ランキング6位を獲得。
翌77年にジュニアヘ昇格。350ccに乗りかえてランキング2位、A級に昇格が決まった。
折しも、富士グランチャン2輪レースが開催されたが、
この時まだジュニアなのにもかかわらず特別参加を許可される。
そして、中古のTZ350ccを駆って、みごとコースレコードをたたき出した。
78年、国際A級ライダーとして、MFJのシリーズ戦に挑み、
なんと8戦全勝という前人未踏の記録を樹立した。
79年はランキング3位。81年にスズキと契約、ワークスライダーとなる。

 何とも素晴らしい戦績、天才ライダーの名に恥じない見事なデビューぶりが目を引く。そして、世界での活躍が期待された83年3月29日、フランスのブガッティ・サーキットで練習中、イタリアの選出と接触転倒、帰らぬ人となった。享年27歳。
 最後に、この石川岩男選手の熱烈なファンのサイトが見つかったので紹介しておこう。たくさんの写真を使った熱のこもったサイトなので、興味があったら見てほしい。
http://www.hi-ho.ne.jp/rs-okuno/iwao/iwao_index.html