武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

『13歳のハローワーク』 村上龍著 (発行幻冬舎2003/12)

 村上龍の「半島を出よ」が面白かったので、図書館の児童書のコーナーで「13歳のハローワーク」を借りてきた。手にとってレイアウトとイラストが素晴らしいのに感心した。こういう本が値段が高くてもミリオンセラーになるのか、と納得した。気づいたことを列挙してみよう。
 ①ざっと読んでみて、これは現代社会の職業案内の形をとった現代社会案内、言葉をかえれば現代社会の縮図。もし元禄時代に時代を絞り込んでこのような本を作ったら元禄の世の中の縮図が描けると思った(ただし職業選択の自由はなし(笑)。
 ②大人世界の入り口に立つ13歳でなくとも十分に楽しめる内容。わけのわからないカタカナ職業のことも、この本を読んで少しわかったような気がしてきた。何よりも素晴らしいのは、この本の骨格をなしているコンセプト、興味がありどうしようもなく好きで好きでしょうがないという観点から職業を分類して見せたこと。目次を見ながら消去法を使って嫌いなことや苦手なことを取り除いてゆくと、ぼんやりながら自分の進む道が見えてくる。これは凄いこと。成績(能力でも学力でもない)で子供たちを輪切りにしている学校化社会への痛烈なアンチテーゼ。
 ③自分が小学校を卒業したころにこの本を手にして、春休みなどにぼんやり将来のことを考える機会があったら、どんなに良かっただろうと思った。おそらくこの本とはずいぶん違う職業分類になっていたとは思うが、大人たちが真剣にこうゆう職業案内を作っていてくれていたら、自分が生きてゆく社会についてのイメージが、はるかにしっかりしたものになっていたに違いない。小中学校の図書館用として爆発的に売れた理由がよく分かる。
 ④進路指導としてかつて私が経験したのは、職業適正テストのようなもの、その解説に無数の職業が列挙されていて、ほとんど何のことか訳が分からなかったことを覚えている。類似のものは、高校でも、大学でもやらされたような記憶があるがほとんど無意味だった。この「13歳のハローワーク」1冊あれば、あんなものはいらなかったような気がする。適正ではなく好き嫌いで選ぶことが最後は適正になって実を結ぶという思い切りが大事。
 ⑤「はまのゆか」さんのイラストが素晴らしい。文章で伝えきれない情報を付加して、この本の価値を何倍にもしている。イラストでなく写真だったら仕事への夢が現実に近づきすぎて夢でなくなってしまい、単なる職業案内になってしまったかもしれない。文章だけだったら、子ども達は手に取らなかっただろう。イラストの威力をこんなに感じた本は久し振り。
 広範な内容が一望できるので、簡単に目次を引用しておこう。

1,自然と科学に関係する職業
①花や植物が好き/②動物[爬虫類・魚と鳥を含む]が好き
③虫が好き/④人体・遺伝が好き/⑤雲や空や川や海が好き
⑥火と炎と煙が好き/⑦星や宇宙が好き/⑧算数・数学が好き
2,アートと表現に関係する職業
①音楽が好き/②絵やデザインが好き/③文章が好き/④ダンスが好き
⑤映画が好き/⑤テレビやラジオが好き/⑥ステージが好き
3,スポーツと遊びに関係する職業
①スポーツをするのが好き/②賭け事や勝負事が好き/③収集するのが好き
④アウトドアライフが好き/⑤メカ・工作が好き/⑤乗り物が好き
4,旅と外国に関係する職業
①旅行が好き/②外国語が好き/③地図を見るのが好き
5,生活と社会に関係する職業
①心のことを考えるのが好き/②お料理が好き/③家やインテリアが好き
④おしゃれが好き/⑤人の役に立つのが好き
6,何も好きなことがないとがっかりした子のための特別編
①戦争が好き/②ナィフが好き/③武器・兵器が好き/④テレビゲームが好き
⑤アニメが好き/⑥漫画が好き/⑦カラオケが好き/⑧何もしない&寝ているのが好き
⑨エツチなことが好き/⑩ケンカが好き
P.S,明日のための予習 13歳が20歳になるころには
1,いろいろな働き方の選択/ 2,IT[Information Technology]
3,環境-21世紀のビッグビジネス/ 4,バイオは夢のビジネスか

 リタイアした私が読んでも、十分に楽しかった。13歳以上でも以下でも、この本ならいろいろな角度から楽しめるはず、もし未読ならどなたにでもおすすめしたい。
 ネットに「13歳のハローワーク」の公式サイトがある。本とは一味違う面白いサイトになっている。興味のある方は、そちらのほうへもどうぞ。マップが楽しい、できることなら本の付録に付けてほしかった。
http://www.13hw.com/