武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 退職者の日々、第2段階へ(4)

 ある不動産鑑定会社のサイトを眺めていたら、不動産取引の長くて複雑な過程を評して、取引が完了するまでが「一連の物語」になると書かれていて、なるほどと思った。

 例えばデジカメの購入を想定すると、性能と品種を下調べして、カメラ店へ行き商品の現物に触ってみて、納得できたらレジへ持参、代金を支払い品物を受け取って取引完了となる。ほかの商品でも似たようなものである。
 だが、土地や不動産の取引となると相当に事情が違ってくる。それは、土地や不動産という商品が、きわめて特殊は商品だということからくる。

 地球上の一区画をの所有権を、土地に関する国家の法制度のもとで、お金を払って手に入れると言うところから変っている。本来誰のものでもないはずの、地球上の一区画が、誰かの私有になっているということも何だか変だ。考え始めるときりがないのでやめておくが、不動産を買うという行動は、最後までこの奇妙さに付き合うことだ。
 さて、不動産の特徴にはとても値が張るということがある。退職者である私たちに金銭的な余裕などあるはずもないので、当然できるだけ安い物件を考えた。そして、安い物件といえば、訳あり商品である競売物件である。

 実際に、2件ほど競売物件を内覧してきた。現在は入手した不動産屋さんの売り物なので、具体的なことは書くべきではないが、一目見てショックを受けた。仕事や生活の失敗が債務不履行にいたるまでに、様々な葛藤や不幸な出来事があったのだろう。家屋に残された不幸の傷跡と言うか、単なる汚れ以上のものが、家屋だけでなく敷地にまで刻印されているという印象を受けた。
 よほど徹底したリフォームを施すか、いっそのこと整地してしまうか、売り物として再生するには相当の費用がかかると思ってしまった。

 安いものには、それなりの理由があり、退職者が安易にかかわれるような代物ではないということがよく分かった。尻尾を巻いて退散するしかなかった(苦笑)。