武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

  新訳続出のロングセラーの少年向け読み物の新訳を遅ればせながら一点読んでみた、そして不思議に思ったことと素朴な感想。

toumeioj32005-08-29

 内藤 濯の訳で岩波少年文庫から「星の王子さま」の初版が出たのは1953年。私が初めて読んだのは、多分60年代の前半のいつかだったと思うが、何時ごろだったか余りはっきりしない。一読、やさしい感じがして面白いと思い、友人の何人かに勧めた記憶がある。書店に並び続けていることには気づいていたが、それ以来手に取ることはなかった。
 あれから50年以上たったのに、依然として強い人気が続いている。合計で600万部以上売れたと言うから、1冊400円として24億円か、版元の岩波書店はうまいドル箱を握っていた訳だ。今年になって、著作権の関係から次々と新訳が各出版社から出てきた。これは、新訳ラッシュといっていいほど。面白いから列挙してみよう。
 ①『星の王子さま』三野博司訳(論創社
 ②『Le Petit Prince』小島俊明訳(中央公論新社
 ③『星の王子さま倉橋由美子訳(宝島社)
 ④『小さな王子さま』山崎庸一郎訳(みすず書房
 ⑤『星の王子さま池澤夏樹訳(集英社
 他にも同書に関連する出版が数冊あるようだ。これで、6種類の日本語訳が並ぶことになる。不思議な現象といえまいか。試みに池澤夏樹訳を読んでみた。昔、内藤 濯の訳で読んだときのことはあらかた忘れているが、似たような優しい純朴な童心に対する憧れと、漠然とした<大人>への嫌悪もしくは抵抗感が読み取れた。これは、もともとそうゆう感じの本だったなと感じたが、それ以上でも以下でもなかった。
 どのエピソードをとっても余り深読みできそうにもないし、すこし舌足らずなような甘えたような記述は、それ以上の感想を持ちようがなかった。著作権の縛りが緩和されたからといって、5種類もの新訳が一斉に並んで出版界をお騒がせするようなものではないような気がした。ロングセラーのおこぼれを何社が頂戴できるだろうか。何年か経って、どれが書店に並び続けているか、興味があるが、全部消えてしまうことがないことを期待しておこう。ちなみに私が読んだのは、地方の中型書店でたまたま見付けたもの、他の訳は見あたらなかった。6種類並べて比べてみたかったのに残念。