武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

2005-01-01から1年間の記事一覧

 次に、東京国立博物館の『北斎展』を見に行った。

今月25日に始まったばかりなので、入場者がとても多く行列の動きに挟まれての鑑賞になった。こちらも、案内ページの文章を引用する。 北斎が世界中の人々に愛される理由、そのひとつは、流派や伝統にとらわれない自由な筆で、把握しがたいほど多彩な作品を描…

 『キアロスクーロ ルネサンスとバロックの多色木版画(フリッツ・ルフト・コレクションの所蔵作品による)』

最初に、国立西洋美術館で木版画<キアロスクーロ>を見た。<キアロスクーロ>なる木版画がどういうものかパンフレットから引用する。 ルネサンス美術たけなわの16世紀はじめ、版画の表現法が大きく広がった時期に、ドイツで新たな木版画の技法が発明されま…

 何事も調べてみることが大好き、わからないまましておくのが生理的に嫌いなために、これまで多種多様な事典や辞書のお世話になってきた。書棚の一角が全部百科事典や各種の事典、辞書の類にずっと占領されてきていたが、ここ何年か前から、辞典類の書棚に変化が起きはじめた。

小型の電子辞書が飛躍的に便利になったために、英語や国語など、言葉の意味を扱う辞書の類が、そっくりいらなくなった。長年お世話になってきただけに処分するに忍びなかったが、細かい字がつらいこともあって、とうとうお引取り願うこととなった。小型電子…

 朝から快晴、早めに用事を済ませて、9時頃から散歩に出た。(写真は農道脇で見つけたカラスウリの実)

近くの公園を回り軽くウォーミングアップ、住宅街わきの小さな果樹園をまず訪問、いろんな種類の実のなる樹木をうえていて木の間には花も多いが、この時期、咲いている花は僅か、所有者の伯父さんに挨拶して、先の農道へ進む。 日和がいいので農家の人が作業…

 ジム・ロジャーズ著・林康史+林則行訳(日経ビジネス文庫)

バイクを乗り物に使った旅行記は、自分でもバイクに乗りツーリング好きなので、これまで可なりの数読んできたが、そんな数あるバイク旅行記の中でも、これはベスト5の確実に入る1冊。バイク旅行記の枠を突破して、世界認識あり方の一つを、具体的に提起して…

 ルービンシュタインのベートーベン・ピアノ協奏曲第五番<皇帝>の演奏に触発されて

何よりも奏者88歳時のピアノ演奏がきわめて素晴しい。RCAから出ているCDを何度聴きなおしたか数え切れない。威風堂々がっしりと聳え立つような絢爛たる音の構築物、文句のつけようがない感動的な名演奏。 このCDのことを敬愛する音楽評論家、宇野功芳さんは…

(写真はつい先日近くの遊歩道を歩いていて見つけたハナミズキの実、宝石のように輝いて実に美しい)朝から雨が本降りだったので、散歩通勤はあきらめてバスに乗った。

同じように、自転車通勤している人もバスに切り替えるせいで、本降りの雨の日は、バスがなかなか混み合う。混んでいたせいか、運転手のトークが気になった。おそらくテープを使っていると思うが、女性の声のアナウンスが停車情報を伝えているのに、カーブの…

(写真は、フライバシー情報にブラシでマスキングした私の通勤定期)  生涯で最後の通勤定期を購入して、いささか感慨をもよおしたので一言。もうこれから先、公共の乗り物で通勤する必要がなくなる年齢がきたということをとりあえず喜びたい。

病気や事故より確実にこの日が来ることが分かっていたので、3年ほど前から徐々に意識するようにはなっていた。退職金や年金制度のことが他人事ではなくなり、自分のそうは遠くない時期の生活設計に関わることとして、実際にどうなっているのか調べてみるよう…

(写真は住宅街の舗道脇で見つけたホトトギス、数少ないこの時期の街の彩り、撮影10月16日)

昨夜からの雨が降ったり止んだり、秋の雨が街をぬらし、着実に夏の熱を吸収してゆく。昼前に図書館へ行き、航空公園を散歩した。若者達がフリーマーケットを開いていたのでひやかして歩いた。園内の広葉樹は色がくすみ、紅葉の準備をはじめている。ipodでチ…

  石渡利康・三谷芙沙夫訳編集(二見書房発行)

奥付を見ると昭和47年1月発行となっている。1972年になるので、今から35年以上も昔のことになるがとても有益で過激な児童向けの一冊の図書が話題になった。教育関係者の間では、賛否両論が飛び出し、なかでも親たちの良識を代表する各地のPTAが子ど…

『窯変源氏物語』②③橋本治著(中公文庫)

①がとても新鮮で面白かったので②と③を続けて読んだ。前回書いた橋本訳のユニークな楽しさは変わらないが、続けて読んだせいか、源氏物語そのものが持つ物語としての豊穣、奥深さが感じられた。古典があまり好きではない私に、源氏が面白いなどと言う感想を持…

 「脱・初心者を目指すあなたに」と題されたこの本は、どれを読んでも分かるのを拒んでいるような感じを与えるPC参考書が多かった当時、文字通り<ファイル>というたった1個のキーワードをとことん展開して、Windows95 というやっかいなOSを見事に解説した「眼からウロコ」の1冊だった。奥付を見ると、平成9年6月初版発行とある。Windows95 が発売されてブームとなった1995年から遅れること2年、PCが本格的に大衆化して、分からなくて困っている人が大量に出始めた頃だった。

私も事情があって、人にPCを教える立場に立たされて、今ひとつ、何を教えていいのか確信がもてずに悩んでいた時期だった。マウスとキーボードの使い方でお茶を濁し、本当はもっと別のことを教えなきゃいけないんだけど、難しがられるだろうなあと困り抜いて…

 今日、所沢市民文化センター・ミューズにて小林研一郎指揮の日本フィル演奏会があり、小研(コバケン)さんの盛大に盛り上がる指揮を期待して聴きにいってきた。プログラムはチャイコフスキー、小山実稚恵さんのピアノによるピアノ協奏曲第1番と交響曲第4番。

まず、前半の小山実稚恵さんのピアノが良かった。昨年、スクリャービンのピアノソナタ全集をリリース、話題になった実力派ピアニスト、期待通りメリハリのある立派な演奏、この曲は高らかに鳴り響くオーケストラと体重を鍵盤に叩きつけるような分厚いピアノ…

 『キラーストリート』サザンオールスターズ(ビクター)

久しぶりにサザンの新しいアルバムが出た。さっそく買って聴いてみた。いつもサザンしっとりとした叙情的ロックを楽しく聴いてきたが、今回もたっぷり満足した。 日本語をリズムとメロディーを基調に使うので、あっと驚く新鮮なサウンドと言葉の出会いが楽し…

  小山ゆうのマンガが大好き。「おれは直角」のデビュー作以来、毎回、間違いなく楽しい読書の時間を提供してもらったことに感謝が尽きない。沢山ある小山マンガの中でも、特に気に入っているのがこの「スプリンター」という長編作品、読み出したらいつも14巻の最終回まで連れて行かれてしまう。傑作だとつくづく思う。

ストーリーはいたって単純、結城光と水沢純子という2人の主人公の愛と成長の物語、物語のゴールは最速のスプリンターを目指すと言う話だが、複雑に錯綜する複線のストーリが豊かで楽しい。分類してしまえば、戦後マンガのスポーツ根性物に入れられてしまう…

 (写真は数日前、八ヶ岳高原で写した咲き残りのアザミと蜜集めのハチ)10月に入って秋の気配を運ぶ雨が降る。朝の通勤時間、つかの間の雨上がりの時間帯を利用して、通勤散歩、雨模様なので歩く人影が少ない。朝練の中学生達も姿を見せない。

自宅を出ると公園の脇を抜け、高層マンションの間を通り、小さな商店の間を辿って住宅街に入る。イヌを散歩させている人ともあまりあわない。雨の中をうれしそうに歩くイヌもいるが、雨が嫌いなイヌもいると聞いたことがる。 手入れの行き届いた庭が並ぶスト…

本棚の奥から懐かしい本が出てきた。ネットでざっと検索してみたが、入手するのが難しそうなので簡単に紹介してみたい。

表題の通りこの本は、音楽の記録メディアがレコード全盛だった頃のジャズ名盤案内書。この国のジャズファンは、この頃はほとんどレコード鑑賞を通してその魅力に触れ、ファンに留まったり、マニアに成長したりして、ジャズという音楽の深みに嵌っていったも…

 先日、古書店をぶらぶらしていて100円コーナーで、窯変源氏物語の①から③までを見つけ、もともと気になっていた本なので3冊とも購入した。橋本治さんは、桃尻娘以来、旺盛な創作力ある稀に見る才人としていつも視界に入れてきた作家。ある時からこの国の古典の現代語訳に守備範囲を広げ、見事な活動を展開している様子、気になって仕方がなかったが手に取る機会を逸してきた。

さっそく、窯変源氏物語を文庫で読み始めてみて感心した。橋本治さんの現代語訳は、これまでの沢山ある源氏物語の現代語訳と一線を画す画期的な仕事だということに気が付いた。「一人称で語る光源氏の物語」という宣伝文句だが、確かにその通り。だが、才人…

 用事があって八ヶ岳の山麓にある清里周辺へ3日間の日程で行ってきた。(写真は咲き残りのリンドウ、枯れ始めた草むらのなかでよく一目を引く)

標高1000mの高原地帯では、日中は20度を越え爽やかに過ごせたが、朝方は13度前後まで気温が下がり、秋の気配が忍び寄って来ていた。広葉樹の緑に勢いがなくなり、心なしか紅葉に向けての準備が始まっているような感じを受けた。 夏の間は、熱めの風…

  浜田明訳(講談社世界文学全集第78巻)インターネットの発展の恩恵をこうむることが多いが、とりわけ、欲しいと思っていた書籍を入手するのに絶大な威力を発揮してくれる。(画像はこの本の印象的な函カヴァーを少しトリミングしたもの)

以前は、欲しい本や調べたいことがあると、まず大きな図書館に行って下調べをして、それから大きな新刊本屋か古書店街にでかけた。下調べに半日、書店での本探しに1日、足を棒のようにして探し回って、見つかれば運の良い時、空振りに終わることも多かった…

 1969年ウイーン生まれの躍進著しい若手ヴァイオリニスト、ベンヤミン・シュミットのリサイタルに行ってきた。会場は所沢市民文化センターミューズのマーキーホール、プログラムはモーツアルトからイザイまで、マリアーネ・ヘーリングさんのピアノとのデュオが3曲とソロが1曲、どの演奏も力強く、メリハリ気が利いていてよく響きわたる素晴らしい演奏だった。弱音でたっぷりメロディーを歌わせるところでは歌心があふれだし息を呑むような美音を奏でてくれた。

モーツアルトでは愉悦に満ちた愛らしい舞い踊るような楽しさ、ピアノとの躍動感あるやり取りがとても楽しかった。2番目のバッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調では、技巧の冴えを響かせながら難曲のシャコンヌを盛大に盛り上げ会場を…

  最近、ふとしたきっかけから、島崎藤村の長編「夜明け前」を読み出した。2部構成で、文庫本は上下に分かれるので4冊になる長編、しんどい話だが、読み始めたら、巧みな設定と緻密な時代考証に基づいた重厚な展開に引き込まれ、飽きずに読み続けている。先を急ぐ若いときだったら研究目的でもなければ、興味深く読めなかったと思うが、ゆっくり展開する厚みのあるストーリーを楽しめるような年齢になったので、けっこう楽しんでいる。

第一部の上巻は、嘉永6年(1853年)6月頃から話が始まる。いわゆるペリー浦賀来航の年、長年続いた江戸幕府が、欧米の圧力を受けて徐々に崩壊の時を刻み始める年。誰が読んでも、作者が描こうとしているのは幕末の変革の時代だと言うことはすぐ分かる…

 埼玉県でも有数の質を誇り、温泉そのものが楽しめる本格的な温泉だと言う「白寿の湯」へ行ってきた。(写真はこの時期、沢山の花を付けているサルスベリ)

湯船には赤褐色に濁った湯が溢れ、湯につかると身体が見えなくなる。浴室の床には温泉の茶色い土のようなものが層をなして薄く堆積していて雰囲気がある。浸かっていると土の匂いなのか独特の匂いに包まれる。舐めてみたが、ピリッと来る強い塩味がした。浴…

  久しぶりに丸木美術館に行ってきた。以前に行った時と違っていたことがあったので、報告しておこう。(写真は、最近ほとんど見なくなった蝉の抜け殻、先月に写したものから)

まず、車で行く人のために、以前にあった駐車場は使えなくなっていて、美術館のすぐ近くの空き地が駐車場になっていた。車で行く人は美術館のすぐ側まで、狭い道でも車で進まれることをお薦めする。 次に、展示作品だが、以前行った時には、原爆の図の全作品…

 『新版貧乏旅行記』つげ義春著(新潮文庫)

つげ義春のマンガが気に入って、昔、「ガロ」という月刊マンガ雑誌でよく読んだ。一読、ストーリがうまいわけでも、絵が特にうまいわけでもないが、なぜか強い印象を残して、また読み返してしまう。不思議なマンガ家だった。コマとコマの間に、時折とんでも…

 『遊歩大全』コリン・フレッチャー著 芹沢一洋訳(発行森林書房)

「ハイキング、バックパッキングの喜びとテクニック」と言うサブタイトルのついたこの本は上下2巻に別れており、通しのページを見ると、全部でなんと670ページにもなる分厚さ。歩くことについての薀蓄を期待して読み始めると、じきに失望し途中で挫折し…

 『井戸』笹原常与著(発行思潮社)

淡い形而上学的叙情とでも評すしかない爽やかな傑作詩集、ほとんど知る人のいない詩集だと思うので紹介したい。 まず、詩集の表題にもなっている一編を全編読んでみていただきたい。かくも繊細に言葉を取り扱う言語感覚、そっと掬い取られる和えかな産毛のよ…

 ヘンリク・ミコワイ・グレツキ作曲、告発の歌ではないが重い意味が込められた現代の交響曲。全編、嘆きと悲しみに浮いたり沈んだりして、たゆたう悲歌のシンフォニーとしか言いようのない、つらい音楽である。作者グレツキは1933年ポーランドのオシェウェンツィム生まれ、このポーランド語の地名を読み替えるとアウシュヴィッツ、ナチの強制収容所があったところ。資料を見ると、アウシュヴィッツの強制収容所建設が開始されたのが1940年、ということは、グレツキ少年7歳の時。

グレツキの評伝は知らないが、この事実が彼の人生に与えた影響は、小さくなかったのではないか。「悲歌のシンフォニー」と呼ばれるこの曲を聴いて、一番気になったのは、まずそのこと。音楽を聴いて、作曲者の伝記的なストーリーを気にする聞き方はどうかと…

  石田勇治・星野治彦・芝野由和編訳(発行白水社)

国家による戦争、第2次世界大戦、20世紀、現代文明、民族国家、これらのどの課題を考えるにも、私にとってはナチによるユダヤ人多量虐殺は、避けて通れない扉のようなものとなって久しい。一部の人から、自虐的と言われようが、この国が犯したアジアへの武力…

 『窓際OL トホホな朝 ウフフの夜』斉藤由香著(新潮社)

作家の息子や娘、孫たちが、素晴らしい文章力を駆使して活躍するのを見ると、文章力は遺伝するのかな、と不思議な気がする。ちょっと思い浮かべるだけで、何人も名前が浮かぶ。この本も、「祖父・斉藤茂吉、父・北杜夫」という帯の文句に目が行き、秀逸な題…