読書
沢木耕太郎のノンフィクションをずいぶん長く愛読してきた。彼の文章には、いつも鮮やかに物語の形にきりとられた人々の生きる姿が生き写しになって焼き付けられている。事実に基づくノンフィクションだから、並の小説などにはとても真似の出来ないリアルな…
ミステリは大好きだが、ミステリのマニアでも愛好家でもないので、傑作の定評があるものでも未読のものは数多い。全体的な展望や、歴史的な経過にも疎い。だから、ガイドブックや読書案内の類のお世話になることに吝かではない。偶然に図書館で手にしたこの…
この作者の翻訳された3作「キングの死」、本書、「ラスト・チャイルド」の評判がいいので、2作目の本書を手に取ってみた。巻頭の謝辞に著者が書いているように、これは濃密な「家族をめぐる物語」だ。同時に喪失した自己の回復と、緊迫した謎解きのサスペン…
武蔵野でも梅雨明けの厳しい暑さが続いている。だが、どうした訳か例年に比べて、蝉の鳴き声があまり聞こえない。<蝉時雨>などという風流なサウンドの洪水が、何時になったら体感できるかいささか気がかりである。 このところ暑さのせいもあるが、ふとした…
デキゴトロジーから育った書き手の一人森下典子さん、「典奴どすえ」をはじめとする作品で器用で軽いエッセイストとばかり思っていたが、この本を読んで、考えを改めた。 人の前世を透視するというオカルトっぽい導入からはじめて、鑑真和尚とともに中国から…
夏目房之介さんの傑作イラストコラムについて調べているうちに、その母体のデキゴトロジーのことが気になり出した。週刊朝日に連載され、1年1冊のわりで単行本にまとめられ、文庫に入れられて、全部を楽しめるようになっている。よほど人気があるのか、文庫…
沢山の料理本のなかで、我が家のおかずとして一番たくさん食卓に上るのは、やっぱり小林カツ代さんのもの。日頃からおっしゃっていた通り、簡単で手間いらず、材料が入手しやすく、誰が食べても美味しいと思える気取らない料理、あるべき家庭料理を提案し続…
現役の頃、家族そろって贔屓にして、毎週のように出入りしていた蕎麦屋があった。その店の雑誌置き場に、長い間、週刊朝日が1ヶ月分いつも置いてあった。興味を引く記事があると拾い読みした。懐かしい「デキゴトロジー」もそこで読んだ。重箱の隅をつつくよ…
県民性などという、地域風土が人格の形成に影響するという考え方の、古典的なお手本のような書物、何時ごろ誰が書いた物なのかよく分かっていないが、文体に統一性があるので特定の個人が記した物と言われている。交通の便がわるかった戦国時代以前の大昔、…
電子書籍の普及が図書館に与える影響を調べようとウロウロしていて、偶然にこの新書に行き当たった。図書館業務に精通した現役の図書館関係者の本と期待したのだが、深く広く図書館活用法を説いて、非常に有益だった、ベスト図書館取扱説明書として紹介して…
書庫を整理していたら、懐かしい本が出てきた。壇一雄の「壇流クッキング」「美味放浪記」、そのご子息の壇太郎さんの「新・壇流クッキング」「自由奔放クッキング」、太郎さんの奥さん壇晴子さんの「檀流クッキング入門日記」「わたしの檀流クッキング」な…
この世に生まれ出て60有余年、意識してはかつて一度もダイエットに取り組んだことはなかった。先日、「ためしてガッテン」という生活情報番組をみて、「計るだけダイエット」の話題が面白かったので、関連の書籍を図書館から借りてきた。一読、何時誰が襲わ…
この本はペットの可愛らしさや、ペット共に暮らす生活の楽しさなど、ペットブームを当て込むようなセールススピリットとは全く無縁の、現状におけるこの国のペットが抱える様々な問題を客観的に把握、冷静に解決の方向性を手探りするという、画期的な内容の…
中国の古典文学ほどこの国の文学的感性に大きな影響を与えたものは他にないだろう。にもかかわらず、漢詩を日本語に翻訳する試みはこれまであまり精力的には取り組まれてこなかった。その理由について、中国文学研究者である荒井健氏は中国詩人選集のしおり…
書庫の奥から懐かしいものが出てきた。今から30年以上前のとっくに賞味期限が切れているはずの本だが、キャンプやロングツーリングをする際に、この本を繰り返し参考にした。野外生活のあらゆる場面を想定して、理念ではなく技術を前面に出しながら、ストイ…
1981年から2003年まで「日刊ゲンダイ」で毎週1回続けられてきた<狐>名義の匿名書評が好評を呼び、まとめられて4冊の本になっている。1992年の『狐の書評』本の雑誌社、1996年の『野蛮な図書目録 匿名書評の秘かな愉しみ』、1999年の『狐の読書快然』洋泉社…
優れた科学読み物に巡り会うと、二つ得した気分になれる。よく知らなかった分野の知識や思考方法がスッキリと分かったような気分になれること、もう一つは、記述の明晰さを辿っているうちに何だか自分の頭が良くなったような気がしてくること。逆に良くない…
現役のころのある日の通勤電車の中で見た光景、夜の退勤時刻の空席に腰を下ろした老紳士が、鞄から取り出して読み始めたのはシリーズ3冊目の「夜のフロスト」だった。書店で購入したばかりらしく1ページ目からゆっくりと読み出したその様子が、芳醇な喜びを…
絵本「100万回生きたねこ」を初めて読んだ時の驚きは、忘れられない。児童用の読み物にしては余りにも残酷で、終わり方の限りない優しさと救済に満ちたメッセージ、途轍もなく斬新な絵本の世界に私は言葉を失った。我が家の子ども達が成長した後だったので、…
昨日の朝、TVのニュースで井上ひさしさんが亡くなったことを知った。お芝居や小説、エッセイなどでずいぶんと楽しませてもらった。惜しい人をなくした。ほかには井上さんのようなものを書ける人がいないだけに、この空白は埋めようがない。 多方面に活躍し…
つい最近までこの大河のような長編マンガの存在自体を知らなかった。SFやミステリィ、時代小説などの文芸ジャンルには、身近に親しんだり遠ざかったりする時期がある。同じようにマンガ作品に対してもある時期、距離を置くようになってしまった。マンガが…
ふとした切っ掛けがあって、山手樹一郎の時代小説を再び楽しむようになった。思い起こせば、戦後の一時期、貸本屋が繁盛していた頃、山手樹一郎物は貸本屋の必須アイテムだった。「貸本キング」などと呼ばれてもてはやされたこともあったらしい。 その作風を…
今から20年ほど前、オートバイで一夏、芭蕉の奥の細道の行程をたどったことがある。隅田川の新大橋から岐阜の大垣まで、カーナビなどなかった時代なので、地図を確かめ道に迷い、苦労の多い思い出深いロングツーリングだった。その時もその後も、繰り返し「…
蔵書を整理していて、本の山の中から顔を出してきた一冊、今日のように見事に晴れ渡った透明度の高い青空を見上げていると、呟いて見たくなる名台詞「今日は死ぬのにもってこいの日だ」。原詩は、 Today is very good day to die. 日本語訳のあまりの見事さ…
昆虫写真家の一人、栗林慧さんが撮る昆虫写真は、一言で言えば<あり得ない写真>である。少しでもレンズの性能について知識のある人なら、栗林さんの写真を見たとたん目を瞠り次に首をかしげるに違いない、どうやってこんな写真が撮れたのだろうと。 この本…
2006年から2年3ヶ月連載された推薦図書シリーズ、九州ゆかりの作家や作品からベスト100点を選び、次世代への熱いメーセージと共に語り伝えようとする好企画、九州人でなくとも十分に引きつける魅力的なシリーズ、とっくに完結してしまっているのだが有り難い…
昨年暮れのインド旅行に際して、旅行前と旅行の後に、もっとインドのことを知りたくて、図書館に行ったり書店をふらついたりネットを検索したりして、インド関連書籍に多数当たってきた。その結果、以下にご紹介する3冊が、インド情報のベストスリーとしてお…
NHKスペシャル「インドの衝撃」シリーズには、よほどの反響があったのだろう。最初のシリーズが放映されたその年に、早くも文春から書籍シリーズの第1作が発行されている。これまでもシルクロードをはじめ多くの番組で繰り返されてきた映像→書籍へと展開する…
インド旅行から帰って3週間ばかりたったが、インドへの興味関心はまだ尾を引いている。図書館にゆけばインド本の書架に目が行き、書店に行けばインド本のコーナーの前にふらふらと吸い寄せられる。それが楽しい。 今回紹介する椎名誠さんの旅行記も、インド…
果てしない翻訳本の大海で、情報不足ゆえに溺れそうになった時、このサイトにしがみついて、何度救われたか数え切れない。徹底したデータ重視の姿勢は、スッキリしていて清々しい。所々、管理人の思い入れや寸評も記入されており、思わずニヤリとなることも…