読書
戦前に没した人物になると、どなたかが意識的に資料を蒐集し整理しないと、いつの間にか忘却の闇に呑み込まれていってしまう。佐々木直次郎の訳業についてもそのことは言える。まして翻訳以外の文章となると、一冊もまとまった書籍の形になったものを残して…
戦前のポオ翻訳者、佐々木直次郎の翻訳にひかれている。他にもディケンズやスティーブンスンなどの格調高い翻訳でも知られている人だが、その翻訳者本人については次第に忘れられた存在になろうとしている。Wikipediaで検索しても、以下のような記述しか出て…
1984年から始まった「日本の食生活全集」は、今回紹介する2巻を含め、全50巻、全都道府県に1巻ずつを配し、「大正末期から昭和初期」の各地の庶民の食生活を記録するいう画期的な企画だった。江戸中期から昭和初期頃までは、この国の庶民の食生活は、あまり…
まず、著者である木下謙次郎なる人物について、ウィキペディアによると「1869年(明治2年)に大分県に生まれる。1892年(明治25年)東京法学院(現中央大学)卒業。 政治家を志し、貴族院議員、衆議院議員として当選9回。この間、所属政党は、国民党、立憲同志…
池波正太郎の銀座日記を拾い読みしていて、前から気になっていた大森澄という元巡査をしていたという人の詩集を読み、一気に引き込まれてしまった。池波は、日記の中で「この人の詩境は他の追随を許さぬものがあるのだ」と絶賛、珍しく気に入った一篇をそっ…
今回は、この国の現役俳優の中でもっとも存在感のある男優、高倉健について書きたい。俳優としてではなくエッセイイストとしての、言語表現者としての<健さん>の凄さについて。以前に読んだ『あなたに褒められたくて』という随筆集もよかったが、今回読ん…
古書店の廉価本の中で偶然に手にした本だったが、読み出したら吃驚するような中味に引き込まれ、これまでに見聞きしたり体験したりしたことを思い起こしながら、一気に読んでしまった。改めて巻頭の専門家のコメントを読むと、「ダニエルを知ることで、わた…
何時頃手に入れたか覚えていない。昔、この全6巻の連作詩集を読み、まど・みちおさんの詩人としての凄さを思い知らされた。『てんぷらぴりぴり』、『まめつぶうた』に続く3冊目の詩集が、6冊セットの連作詩集というのは異色だった。そして、何よりも、詩人と…
先日、近所のBookoffの廉価本コーナーを歩いていて、以前から気にとめていた「決壊」の上下巻が並んでいるのを見つけ即座に購入した。一読、正面から現代社会の負の側面に焦点を当てた力作として興味深く読めたので、紹介したい。 この国の現在を描き出して…
先月の30日に亡くなられた元東京高裁判事倉田卓次氏の随筆集、「裁判官の書斎」シリーズの愛読者として、司法界から生まれた希有の読書家にして、卓越した文筆家であった故人の遺徳をしのび、数ある著作の一端をご紹介してみたい。 『裁判官の書斎』(勁草書…
長年読みたいと思っていた随筆集、78年に三茶書房から1000部ほど刊行され、名随筆の誉れが高かったが、入手困難な絶版本だった。それが昨年復刊されていたことを知り、早速取り寄せて読んでみた。評判通りの好著だった。著者が故人なので、これを読んでしま…
ネットで検索していてオークションで偶然に「言海」が売りに出ているのを見つけ、運良く吃驚するような安値で入手できたので、ぺらぺらページをめくったりして愉しんでいる。 「言海」はよく知られているように、「明治に大槻文彦が編纂した国語辞典、日本初…
以前に、お気に入りの書評家、匿名書評氏<狐>さんの著書4冊を紹介した。今回は、同じ著者が実名で刊行した7冊の著書についての報告。実は、私が偏愛していたのは匿名の書評家<狐>さんの凝りに凝った文体が繰り広げる切り口鮮やかな書評だったので、実名…
セゾングループの出版社リブロポートは、美術関係の出版で素晴らしかった。評伝シリーズ「民間日本学者」も評伝好きにはたまらない好企画を揃えた傑作シリーズだった。残念なことに、セゾングループの不振と共に、98年に出版社は解散、シリーズも中断してし…
味覚について調べていて、このブルーバックスの1冊を手に取った。サブタイトルの「甘いものはなぜ別腹?」に興味をそそられた、目次を見て読まずにいられなくなった。気になる疑問がずらりと並んで、読者の気持ちを引きつける。一読、どの回答も科学的根拠を…
ハルキ文庫版の「石垣りん詩集」を手にして、これまでまとめて読んだことのなかった石垣りんの4冊の詩集を急に読みたくなった。折に触れて読み、気に入っていた戦後詩人だったが、これまで総括的に読んだことはなかった。読んでみて、これは得難い経験となっ…
ネットで検索すると「人妻椿」については、女性誌「主婦の友」の項目に「小島政二郎『人妻椿』1935/3-37/4連載、これにより発行部数10万部を取り戻した」という記述がある。著者41歳から43歳の作品、この連載が好評で雑誌の発行部数が飛躍的に伸びたことが伝…
装丁家の桂川潤さんが自らの本を出すと聞いて楽しみにしていた。さっそく取り寄せて一読、さすが現役で今現在快調にたくさんの本を装丁して活躍中の方らしく、外装も内容もとても気に入ったので紹介してみよう。 実は最初に注文するときに2400円という定価が…
Bookuoffの105円コーナーで偶然に手にした「東京読書」という厚みのある本がきっかけだった。東京大好きの愛書家が、生涯の半分以上をかけて、自分の足を使って蒐集した<東京本>の中から、選りすぐりの1冊を月二回のペースでミニコミ紙に連載した記事をま…
同じ著者の「小説葛飾北斎」を読んで自在な語り口が気に入り、ネットで捜したら北海道の古書店がこの「円朝」の初版を出しているのを見つけ、安かったので注文して入手した。50年以上前の古本なので、ページを開くと古書特有の饐えたような匂いがした。この…
本書は編集構成のプランしか存在しない架空の「日本SF全集」の解説という、いかにもSFらしいコンセプトのブックガイドである。手にとって見るまで、まさかそんなこととは思わなかったので、思わずニンマリしてしまった。アイディアは遊び心たっぷりだが、内…
偶然にbookuoffの105円コーナーで手にした本、葛飾北斎の評伝でも伝記でもないので、強いて分類すれば時代小説のジャンルに入るが、スリルやサスペンスで興趣を盛り上げるのがねらいの時代小説でもない。天才画家としての北斎の膨大な画業を梃子にして、絵画…
「博士の愛した数式」を読みその完成度の高さと面白さに脱帽、この作家に果たしてこれ以上の物語が書けるかどうか心配したほどだった。Bookoffの105円コーナーでこの本を見つけ躊躇せずに手に取った。一読、「博士の愛した数式」の時ほどの文体密度はなかっ…
第三詩集『かくれみち』は、1983年に文京書房から発行された。第二詩集からまたしても14年後、作者73歳の時の詩集である。第2詩集「なだれみち」で、精神と身体に纏い付くような呪縛から自らを解き放って自由な言語空間にたどりついた詩人の生涯は、やがて老…
第二詩集『なだれみち』は、1969年に創文社より発行された。55年から69年までの14年間の作品の中から、山に関係するものを89篇選んだと<あとがき>にある。著者59歳ときの詩集である。「山」に関係しない作品の試みもあっただろうが、詩集にまとめるほどに…
若い頃、強く引かれた詩人の一人に鳥見迅彦(とりみはやひこ)がいる。最近、ふと思い出して調べようとしてみたが、忘れられた詩人らしく、情報がほとんど入手できなかった。分かったことは僅かしかない、列挙してみよう。 ①明治43年(1910年)2月5日神奈川…
子どもの頃、算数の時間、脱線した話の中で魔法陣の不思議を耳にして、夢中になったことがある。訳の分からない謎やミステリには、私たちの心を引きつける魅力がある。 どんな不思議でも、自分で作ることが出来ると、例え不思議のままでも何だか親しみがわい…
いつの頃からか、漫画家砂川しげひさのクラシック・エッセイの愛読者になっていた。砂川しげひさの良いところは、クラシックへの熱烈なファンの立場からの視点を、かたくなに崩そうとしないことと、決して難しいことを言わないこと。ことクラシックをネタに…
最近よく目にする<補完代替医療>や<代替医療>などと呼ばれている<医療ならざる治療>は、本当に効き目があるのだろうか。地球上では人類の半数以上が何らかの代替医療を利用したことがあり、年間におよそ400億ポンド(約6兆円)が支出されているという…
猛暑が続いて日中ぐったりとなりながら、日陰で焦げたような匂いのする熱風に吹かれていると、何故か開高健の「輝ける闇」が読みたくなる。けだるい8月、敗戦や被爆の回顧が年中行事としてメディアを飾るのに影響されるのか、これまで何度もこの月に「輝け…